アメリカがデジタルドルを諦めた? 議会がCBDC禁止法案を可決した件

アメリカ議会が中央銀行のデジタル通貨(CBDC)を禁止する法案を通過させました。簡単に言うと、政府が発行するデジタル版のドルは当分実現しないということです。代わりにUSDTやUSDCのような民間のステーブルコインが主役になりそうです。




なぜアメリカはデジタルドルを拒否したのか


2025年7月16日に下院を通過した「Anti-CBDC Surveillance State Act」という法案。名前からして監視社会への警戒心が伝わってきます。


最大の理由はプライバシーの問題です。CBDCだと、コーヒー一杯買うのも政府に筒抜けになります。現金なら誰がどこで使ったか分からないのに、デジタル通貨だとすべての取引が記録に残ってしまう。


中国のデジタル人民元を見ると、政府が市民の消費パターンをリアルタイムで把握できる仕組みになっています。アメリカの保守派はこういう管理社会を本当に嫌がっているんです。


それに、連邦準備制度(FRB)が直接デジタル通貨を発行したら、既存の銀行の役割が小さくなってしまう。これも大きな懸念材料でした。


法案の中身を整理すると


この法案が禁止しているのは:

  • FRBが個人に直接デジタル通貨を提供すること
  • 銀行経由での間接的な発行も不可
  • 研究・開発・テストもすべて禁止
  • 金融政策の手段としても使用禁止
  • 議会の承認なしには絶対に導入できない

ただし例外があって、現金と同じく完全に匿名で使えるデジタル通貨なら許可するそうです。でもブロックチェーン技術で完全な匿名性を実現するのはほぼ不可能なので、実質的に全面禁止と同じです。


ステーブルコインには追い風


政府発行のデジタルドルがなくなれば、その空白を埋めるのは民間のステーブルコインです。


すでに暗号資産取引の7割以上がステーブルコインで行われています。政府がCBDCを諦めたことで、テザー(USDT)やサークル(USDC)といった民間企業の重要性がさらに高まりそうです。


規制の枠組みも明確になるでしょう。政府がステーブルコインを活用するなら、きちんとしたルールが必要になりますから。


国際競争で遅れをとるリスク


一方で、心配な点もあります。


中国はデジタル人民元の実証実験を進めていますし、ヨーロッパもデジタルユーロの準備を急いでいます。国際決済銀行(BIS)のアゴラプロジェクトのような国際協力からもアメリカが取り残される可能性があります。


特に国境を越えた送金の分野で遅れをとれば、ドルの基軸通貨としての地位も揺らぐかもしれません。


実際に法律になるまでは遠い道のり


とはいえ、この法案が実際に施行されるまでにはまだハードルがあります。


上院は民主党が多数派で、エリザベス・ウォーレン議員のようにCBDC研究の必要性を訴える人もいます。上院通過の可能性は正直、そこまで高くないと見られています。


仮に上院を通過しても大統領の署名が必要です。2025年9月までに決着をつけたい動きはありますが、政治的な駆け引き次第でどうなるか分かりません。


これからの暗号資産市場はどうなる


今回の動きから見えてくるのは、アメリカが中央集権的なデジタル通貨より、民間主導の分散型金融を選んだということ。DeFiプロジェクトやプライバシー重視のコインには追い風かもしれません。


ただ、長期的に見てアメリカがデジタル通貨技術で遅れをとることは、暗号資産業界全体にとってマイナスになる可能性もあります。


各国のCBDC競争と民間ステーブルコインの成長、そして規制環境の変化。これからも目が離せない展開が続きそうです。


本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。


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