2025年10月のある週末、暗号資産市場の時価総額から約1兆ドルが消えました。この出来事は、単なる価格下落ではありません。米トランプ大統領による対中関税の発表という外部からの衝撃が引き金となりましたが、本当の問題は市場の内部に潜んでいました。過度なレバレッジ、それによる連鎖的な清算、そして決定的な瞬間に消え去った流動性です。
190億ドル、連鎖清算のドミノ
今回の暴落の核心には、レバレッジ取引があります。レバレッジは少ない資金で大きな規模の投資を可能にしますが、市場が予測と反対に動くと非常に危険です。一定水準以上の損失が出ると、取引所が強制的にポジションを売却します。これを清算(ロスカット)と呼びます。
2025年10月の暴落時、短期間で実に190億ドル、日本円にして約2.8兆円を超える規模のレバレッジ・ポジションが強制清算されました。
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わずかな価格下落が、最初の清算を引き起こします。
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この清算による売りが市場に溢れ、価格がさらに下落します。
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さらに下がった価格が、他の投資家のポジションも強制清算に追い込みます。
このようなプロセスが連鎖的に続き、巨大な清算のドミノ現象が発生し、市場全体を急落へと導いたのです。
皆が売ろうとするとき、消えた流動性
流動性とは、どれだけ簡単かつ迅速に資産を売買できるかを示します。普段の市場には買いたい人と売りたい人が十分に存在し、取引がスムーズに行われます。この環境を作る上で重要な役割を果たすのが、市場を創る人々、すなわちマーケットメイカー(MM)です。彼らは買い注文と売り注文を両方出すことで、市場に流動性を供給しています。
しかし、今回の危機的状況では様子が違いました。市場が急落すると、マーケットメイカーたちは流動性の供給を止め、自らの資産を守るために市場から手を引いたのです。誰もが売りたいと考える市場から、買いたい人が消えてしまいました。
その結果、取引は一層困難になり、価格の下落速度はさらに加速しました。市場のセーフティネットとして機能すべき存在が消え、暗号資産市場の構造的な脆弱性がそのまま露呈したのです。
市場の素顔、システムリスク
大規模な清算劇は、暗号資産市場のシステムリスクを明確に示しました。外部からの地政学的ショックが、高レバレッジという市場内部の弱点と結びつき、流動性危機という最悪の事態へと発展したのです。この出来事は、単に価格が上下する問題を超え、暗号資産市場の構造的なリスク管理と安定性確保がいかに重要であるかを、すべての人に知らしめるきっかけとなりました。
Disclaimer: 本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。