アップルが初めて低価格帯のノートパソコン市場に参入する準備を進めているという話を聞いて、「え、あのアップルが?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。これは単なる新製品の話題ではなく、これまで高級路線を貫いてきた同社の巨大な戦略転換なのです。この低価格MacBookは、アメリカの学生や企業の間で圧倒的なシェアを持つGoogleのChromebook市場を、真っ向から狙っています。
なぜ今、アップルは「安さ」にこだわるのか
アップルは長らく、MacBook AirやMacBook Proといったプレミアム製品に集中してきました。しかし、特にアメリカの教育市場(K-12)では事情が異なります。低価格と管理の容易さから、Chromebookがデバイスの主流となっており、その教育市場におけるシェアは60パーセントを超えているのが現状です。北米は世界のChromebook市場の約半分を占める最大の市場であり、安価なWindows PCと共に確固たる地位を築いています。
アップルがこの市場を無視できなくなったのは、成長の機会を逃しているからです。コードネーム「J700」と呼ばれるこの新しいMacBookは、まさにこの層を取り込むために設計されています。
600ドル台を実現する「異例の挑戦」
この低価格MacBookの最大の注目点は、その予想価格です。現行のMacBook Airの開始価格が999ドルであるのに対し、この新モデルは600ドルから800ドルの間で、一部の予想では699ドル程度まで下がる可能性があると報じられています。
この価格を実現するため、アップルは異例ともいえる決断をしました。
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Aシリーズチップの採用: Mac専用のMシリーズチップではなく、iPhoneなどに使われるA18 ProやA19 ProといったAシリーズチップを搭載します。
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素材とディスプレイの変更: 価格を抑えるために、既存モデルよりも安価な素材を使用し、画面サイズもMacBook Air(13.6インチ)よりわずかに小さい低価格な液晶ディスプレイを採用する見込みです。
Aチップ搭載がもたらす「性能の妙」
「iPhoneのチップでMacBookが動くの?」という疑問が浮かぶかもしれません。実は、ここにアップルの戦略的な洞察が隠れています。最新のAシリーズチップは非常に高性能で、たとえばA18 Proのシングルコア性能は、初期のM1チップを上回る結果が出ていると報告されています。
Aシリーズチップは、Mシリーズチップに比べてメモリ帯域幅や高度なAI処理能力では劣りますが、低消費電力と高いコストパフォーマンスに最適化されています。つまり、ウェブブラウジング、文書作成、動画視聴といった日常的な軽作業が中心となる学生やカジュアルユーザーにとって、このAチップは最高の「ちょうど良い性能」を提供するのです。
Chromebookキラーとしての真価
この新しい低価格MacBookは、iPadにキーボードを組み合わせたセット(約600ドル)と価格帯が近く、より本格的なmacOSの操作性と、優れたバッテリー持続時間を兼ね備えます。Chromebookが教育市場で強いのは、安価であることに加えて、Chrome OSの管理のしやすさにあります。しかし、アップルはMacBookの価格を下げつつ、macOSの柔軟性と、既存のエコシステムへのアクセスを提供することで対抗しようとしているのです。
2026年前半の発売が予想される低価格MacBookは、長年の「プレミアム縛り」から解放されたアップルが、巨大なエントリー市場をどこまで切り崩せるかという試金石になるでしょう。