スマホが急に作れなくなる?実は半導体より怖い「希土類戦争」の話


「半導体戦争」という言葉はよく耳にしますが、実はその裏側で、もっと静かで深刻な**「希土類戦争」**が始まっているのをご存知でしょうか。これは特定企業の競争ではなく、日本の基幹産業そのものが機能停止しかねない、根深い問題を含んでいます。この希土類が手に入らなくなると、電気自動車(EV)から最先端の医療機器まで、私たちの生活が半導体不足とは比べ物にならないほど大きな打撃を受けてしまうのです。


希土類は「すべての先端産業の骨格」です


なぜ希土類がそれほど重要なのでしょうか。希土類はEVのモーターや風力発電のタービンに使われる高性能な磁石の材料として不可欠だからです。もしこれが入手できなくなれば、脱炭素社会の実現に向けた日本の取り組みは大きく足止めされてしまいます。


さらに、希土類は半導体製造の現場でも生命線です。露光装置やエッチング装置といった精密な製造機器のモーターにも希土類が使われています。つまり、希土類の供給が止まれば、EVも半導体も、すべての先端産業の生産ラインが止まってしまうという、より深刻な問題なのです。


中国の「新ルール」がサプライチェーン全体を握る


この希土類を巡る最大のリスクは、中国が世界の精製能力の90%以上を掌握している点です。中国がこの「資源カード」をいつ、どのように切るかで、世界の経済情勢が一変してしまう構造になっています。


特に注目すべきは、2025年10月に中国が強化した輸出規制です。輸出規制の対象となる品目が追加されただけでなく、最終製品に中国の技術や希土類がわずか0.1%含まれるだけでも、輸出には許可が必要となりました。これは、たとえ日本企業が海外で製品を組み立てたとしても、中国の許可なしには輸出できなくなることを意味します。世界のサプライチェーン全体を中国の管理下に置く、非常に強力なメッセージと言えるでしょう。


日本の「隠された切り札」南鳥島の挑戦


このような危機に対して、日本は長年にわたり独自の対策を進めてきました。それが、南鳥島沖の海底レアアース鉱山開発プロジェクトです。


日本はこのプロジェクトを通じて、安定的な希土類資源の確保と、環境に配慮した採掘技術の開発に挑戦しています。実際にこの取り組みが実を結び、日本は中国の輸出制限に対する交渉力を高め、依存度を一定程度下げることに成功しています。


しかし、課題も残っています。希土類磁石に代わる代替素材として研究されているフェライト磁石は、まだ性能が半分程度にとどまっており、完全な代替には技術的な壁が立ちはだかっています。この技術の壁を乗り越えられるかが、これからの日本の国際競争力を左右することになるでしょう。


半導体不足の報道は落ち着きましたが、水面下で繰り広げられる「資源の戦い」は激化する一方です。日本の未来の産業を守るためにも、この希土類を巡る動きから目を離せません。