バンガード、ビットコインETF取引解禁を検討 ─ 日本の投資家が知っておくべきこと


世界2位の資産運用会社バンガードが、ビットコインETFの取り扱いを検討しています。運用資産11兆ドル、顧客数5000万人を抱える巨大企業が動けば、暗号資産市場の構図が一変します。


これまでバンガードは暗号資産に対して最も保守的な姿勢を貫いてきました。2024年1月にビットコイン現物ETFが承認されたときも、取り扱いを拒否。「経済的価値がない未成熟な資産」として距離を置いていました。


ところが2025年9月26日、方針転換の報道が出ました。既存の第三者ETFを通じて、顧客に暗号資産へのアクセスを提供する方向で調整中とのことです。


なぜ今になって方針を変えたのか


理由は3つあります。


1つ目は新CEOの存在です。サリム・ラムジ氏は前職のブラックロックで、現物ビットコインETF「IBIT」の立ち上げを主導した人物。IBITは2024年1月の上場から211日で400億ドルを突破し、上位1%のETFに到達しました。2025年9月時点で約810億ドルの資産を運用しています。


2つ目は競合の成功です。ブラックロック、フィデリティ、チャールズ・シュワブといった大手はすでにビットコインETFを提供しており、顧客を奪われています。暗号資産ETF全体では700億ドル超の資金流入があり、総資産は1500億ドルを突破。無視できない規模になりました。


3つ目は規制環境の変化です。トランプ政権下でSECとCFTCが協力体制を築き、暗号資産の規制枠組みが整備されつつあります。SECは2025年10月に16のアルトコインETF申請に対する最終判断を下す予定で、承認確率は90〜95%と見られています。


日本の投資家への影響は限定的だが注目すべき理由


日本国内では、暗号資産現物ETFはまだ認可されていません。金融庁の姿勢は慎重で、投資家保護の観点から時間をかけて検討しています。


ただし米国株式市場に投資できる証券会社を通じて、米国上場のビットコインETFを購入することは可能です。為替リスクと外国株式譲渡益課税(最大20.315%)がかかりますが、アクセス自体は開かれています。


バンガードの動きが重要なのは、保守的な巨大運用会社が参入することで、機関投資家の姿勢が変わる可能性があるからです。年金基金、保険会社、大学基金といった資金が暗号資産を正式な資産クラスとして組み入れ始めれば、市場全体の流動性と安定性が高まります。


日本の金融機関も、グローバルな潮流を無視できません。海外投資家の動向を注視しながら、国内でのETF認可に向けた議論が進む可能性があります。


バンガードが取り扱うETFの特徴


バンガードは自社で暗号資産ETFを組成するのではなく、既存の第三者ETFを選定して提供する方針です。


ビットコイン現物ETFでは、ブラックロックのIBITやフィデリティのFBTCが有力候補です。これらは実際のビットコインを保有し、価格をリアルタイムで追跡します。先物ETFと違ってロールオーバーコストがかからず、手数料も0.2〜0.25%と低めです。


イーサリアム現物ETFも検討対象に入っています。ブラックロックのETHA、フィデリティのFETHなどがあります。イーサリアムの場合、ステーキング報酬(年3〜5%程度)を配当形式で提供できる可能性があり、ビットコインとは異なる収益モデルを持ちます。


バンガードは流動性が高く、運用規模の大きいETFだけを選別するでしょう。10兆ドルの資産を預かる立場として、安定性を最優先します。


日本の投資家が取るべき対応


米国ETFへの投資を検討する場合、いくつか確認すべき点があります。


まず証券会社の取扱状況です。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などの主要ネット証券では、米国上場ETFを取引できます。ただし為替手数料と取引手数料がかかるため、コストを事前に確認してください。


ポートフォリオ配分も重要です。暗号資産はボラティリティが高いため、全体の5%以下に抑えるのが一般的です。一度に集中投資するのではなく、分割購入でリスクを分散させるほうが安全です。


税務処理にも注意が必要です。米国株式の譲渡益は、他の株式や投資信託と合算して申告分離課税(20.315%)の対象になります。損益通算もできますが、年間取引報告書をもとに自分で計算する必要があります。


情報収集も欠かせません。ビットコインETFは現物保有型のため、カストディリスク(保管リスク)が存在します。またSECの規制変更や市場全体の動向によって価格が大きく動くことがあります。


いつ最終決定が出るのか


バンガードは正式な時期を発表していません。広報担当者は「仲介サービス、投資家の意向、規制環境を継続的に評価している」とだけ述べています。


業界関係者の予測では、2025年末から2026年初めの間に結論が出る見込みです。内部コンプライアンス審査、法務チェック、システム構築といった準備作業に時間がかかるためです。


ただしビットコイン価格が急落すれば、計画が延期される可能性もあります。バンガードは顧客保護を最優先する企業文化があり、市場が不安定な状況では慎重に判断するでしょう。


逆にSECがアルトコインETFを大量承認し、市場が安定すれば、決定が早まるかもしれません。競合他社の実績や顧客からの要望も判断材料になります。


バンガードの動きは、伝統的金融と暗号資産の境界が曖昧になっていることを示しています。最も保守的だった企業さえ、市場の変化を無視できなくなりました。暗号資産は投機対象から、ポートフォリオの一部として認識され始めています。


Disclaimer: 本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。


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