長年、暗号資産市場で語り継がれてきたジンクスが、2025年10月に崩れ去りました。ビットコインは過去7年間、毎年10月に価格が上昇する「アップトバー」というパターンを維持してきましたが、今回はそれが途絶え、月間では下落に転じたのです。史上最高値の12万ドル台から急落し、現在は10万ドル前後で不安定なレンジ相場が続いています。一体なぜ、この7年間の上昇神話は破られたのでしょうか。そして、今の市場はどこに注目しているのでしょうか。
7年間のジンクスが破れた意外な理由
この急落を単なる価格調整と見てはいけません。背景には、暗号資産市場単独では解決できない、より大きなマクロ経済と構造的な問題が絡み合っています。
一つは、マクロ経済と地政学的な不確実性の高まりです。米国での政府機関閉鎖の懸念や、FRBの金利政策に関する継続的な不透明感が、市場全体のリスク回避姿勢を強めました。特にドナルド・トランプ前米国大統領による中国製品への新規関税示唆など、米中貿易を巡る緊張の再燃が投資家心理を大きく冷やす要因となりました。
もう一つは、市場内部の脆弱性です。10月には過度なレバレッジをかけた大規模な先物ポジションの強制清算が発生し、これが急激な価格変動を加速させました。ビットコインとイーサリアムに集中しがちな市場構造も、小さな悪材料でも大きな売りを呼び込む原因になっています。
デジタル金はどこへ?揺らぐ安全資産の立ち位置
ビットコインの長期的な価値を支えてきた重要な物語の一つが「デジタル金」としての役割です。インフレヘッジや地政学的な不安に対する安全資産として認識されてきました。
しかし、この10月の急落局面では、ビットコインが安全資産として機能しなかったことが露呈しました。同時期に金価格が強さを見せる一方、ビットコインはリスク資産のように価格が下落しています。これは、多くの投資家が、不安定な局面でビットコインを「金」ではなく、ボラティリティの高い「リスク資産」として扱った結果です。
「デジタル金」という従来の認識が揺らぐことで、単なる過去の慣例やジンクスに頼った投資判断は通用しない環境になったと言えるでしょう。
11月現在の市場と私たちが注目すべき点
11月に入り、市場は一時的に反発の兆しを見せました。米国の政府閉鎖リスクが後退し、株高の流れに乗ってビットコインも10万ドル台後半まで回復する場面もありました。
しかし、上値は依然として重い状況です。現在の市場は、約10万ドル前後を重要な防衛ラインとするレンジ相場が続いています。特に機関投資家の動向を示すETFの資金フローは不安定で、日によって流出と流入が入れ替わる短期的な往来が見られます。一方で、ビットコインETFへの資金流入が続く一方、イーサリアムETFからは資金が流出するなど、投資家の関心の対象が二極化している点も注目に値します。
短期的な上下の振幅に惑わされるのではなく、私たちはマクロ環境の変化、特にゴールドなど伝統的な安全資産との相関関係を注意深く観察する必要があります。中期的なトレンド自体はまだ上向きを維持していますが、短期フローの不安定さから、価格が上値を叩かれやすい地合いにあることを理解しておくべきでしょう。
今回の「アップトバー」崩壊は、市場のセンチメントが過去のパターンではなく、よりファンダメンタルズとマクロ要因に敏感になっていることの証拠です。この不安定なレンジ相場を乗り切るためには、感情に流されず、リスク管理を徹底し、具体的なマクロ経済指標や資金フローの動向を冷静に分析することが何よりも重要になります。今一度、ご自身のポートフォリオとリスク許容度を見直す良い機会かもしれません。