アメリカで、ビットコイン採掘(マイニング)を行っていた企業が、次々とAIデータセンターへ変わり始めています。
一見、全く違うビジネスに見えますが、実はこれ、とても合理的な動きのようです。なぜなら、両者に共通する「あるもの」が理由です。
なぜ採掘企業がAIに?
ビットコイン採掘も、AIの計算(HPC)も、どちらも膨大な電力と、強力な冷却設備、そして広いスペースを必要とします。
採掘企業は、この大規模なインフラをすでに持っているわけです。
もともと採掘ビジネスは、ビットコインの価格によって収益が激しく変動するため、非常に不安定です。価格が下がれば、収益も一気に落ち込みます。
一方、AIデータセンターは、長期の賃貸契約が中心となります。AIやクラウドの需要は急速に伸びているため、長期にわたって安定した収益が見込めるのです。
不安定な事業から、安定した収益源へ。企業がインフラを活用して事業を多角化するのは、自然な流れと言えます。
Googleも支える新しい仕組み
この転換を具体的に進めているのが、Fluidstack(フルイドスタック)のような企業との契約です。
TeraWulf(テラウルフ)やCipher Mining(サイファー・マイニング)といったアメリカの採掘企業は、Fluidstackと10年以上の長期契約を結んでいます。採掘企業が持つ施設を、AIの計算用に貸し出す契約です。
さらに興味深いのは、Googleのような巨大テクノロジー企業が、この動きを金融面で支援していることです。
GoogleはFluidstackの契約に対して信用保証を行ったり、採掘企業の株式を取得したりしています。これにより、採掘企業は巨額の資金を調達しやすくなり、安心してAIインフラへの転換を進められるわけです。
「ハイブリッド戦略」をとるIREN
IREN(アイレン)という企業は、この「ハイブリッド戦略」の代表例です。
彼らはビットコイン採掘とAIデータセンター事業を、切り替えながら、あるいは同時に運営しています。
IRENの強みは、データセンターの土地や電力インフラまで自社で所有・運営する「垂直統合」モデルにあります。
特にカナダの水力やテキサスの風力・太陽光など、低コストの再生可能エネルギーをうまく活用し、事業のコストを抑えています。
転換の大きな課題「電力」
ただし、この転換は簡単なことではありません。最大の課題は、やはり「電力」です。
AIデータセンターは、従来の採掘と比べても、さらに多くの電力を消費すると言われています(一説には6倍以上とも)。
しかも、AIのサービスは24時間365日、安定した電力が不可欠です。
電力が足りないピーク時に、知事の要請などで稼働を一時停止できる採掘とは、この点が根本的に異なります。AIと採掘の間で、貴重な電力を奪い合う構図も生まれています。
新しい資本主義のモデルへ
アメリカの採掘企業は、単一の目的(採掘)で運営される施設から、AIとブロックチェーンの両方を扱う「ハイブリッドな計算センター」へと進化を遂げようとしています。
これは「データセンター資本主義の新しいモデル」とも呼ばれており、今後のインフラビジネスの形を大きく変えていくのかもしれません。