市場は今、AIブームを1999年のドットコムバブルと比較し、広範囲な株価崩壊の懸念を抱いています。しかし、2025年現在の状況は当時とはっきり異なる点があります。それは「Mag 7」と呼ばれる巨大テック企業群の堅調な業績に支えられているという事実です。現状、彼らが実現している利益こそが、市場全体の崩壊という名の時限装置を、ぎりぎりのところで止めている唯一の要素だと言えるでしょう。
ドットコム時代とは違う、AI企業の「稼ぐ力」
ドットコムバブル時代は、未来への漠然とした期待や投機によって株価が急騰しました。しかし、ほとんどの企業に実際の収益モデルがなく、技術も未熟な段階でした。
一方、現在のAI市場は技術の成熟度が高く、既に現実のサービスから収益を生み出すモデルを複数確立しています。
例えば、2025年第3四半期の決算を見ると、NVIDIAはAI向けGPU需要の爆発的な増加により、一株当たり利益(EPS)の成長率が50%を超える驚異的な数字を記録しています。MicrosoftもクラウドとAIサービスがけん引し、EPSが24%増加しました。彼らの株価は「夢」ではなく、AIによる「現実的な収益」に基づいていることが、今の市場を支える大きな論拠となっています。
本当のバブルはどこにあるのか。儲からないAIスタートアップの現実
それでもAIバブル崩壊の警告が絶えないのは、市場全体が二極化しているからです。つまり、収益基盤を持つMag 7の市場と、そうでない市場に分かれています。
崩壊リスクの温床となっているのは、収益モデルが脆弱な数多くのAIスタートアップ群です。特に生成AI(LLM)関連のスタートアップの大半は、ビジネスモデルが明確でなく、巨額のインフラ投資負担により赤字を出し続けています。
また、製造業や医療、法律などの伝統的な産業へのAI導入も、複雑なデータや規制、倫理的な問題によって収益化が遅れがちです。これら収益性の低い企業こそが、ドットコムバブル時代の「夢」だけを売っていた企業と構造が似ていると言えるでしょう。
Mag 7内部に潜む亀裂とアノマリー
市場を牽引するMag 7の中にも、成長の停滞が忍び寄る兆候が見られます。
例えばTeslaは、EV市場の競争激化と需要の鈍化により、2025年第3四半期に売上高が12%、EPSが17.5%減少しました。圧倒的な強者に見えるMag 7の中にも、業績が悪化する企業が存在しているのです。
これは、すべての巨大テック企業が永遠に市場の期待値を上回り続けることはできないという重要な警告です。この7社のうち一社でも市場の期待を大きく裏切る実績を出した場合、市場全体に不信感が広がり、大規模な売りを誘発する引き金になりかねません。
アーニングショックが崩壊の引き金になる可能性
結局のところ、AIバブル崩壊のタイマーを再起動させるのは、Mag 7企業の「アーニングショック」になる可能性が極めて高いと考えられます。
現在、これらの技術株は過去最高の株価収益率(PER)で取引されており、市場は完全な成長を織り込んでいます。つまり、わずかな業績予測の未達であっても、株価が急落するリスクが極めて高い状況です。
私たちはAI技術がもたらす長期的な成長を信じつつも、過熱した市場の動きには慎重に対応する必要があります。次の決算発表シーズンに向けて、ポートフォリオを柔軟に見直し、もしもの事態に備えることが重要です。これが、アメリカ市場の動向を冷静に見つめる投資家にとって、今一番大切な心構えです。