2025年も残すところあとわずかとなりました。今年1年を振り返って、みなさんの資産状況はどうでしたか。わたしは先日、年末の資産整理を兼ねてポートフォリオ全体を見直していたのですが、あるひとつの大きな違和感に気づいてしまいました。それは、長年信じられてきた「ビットコイン=デジタルゴールド」という定説が、今年に関しては完全に崩れ去っていたのではないかという事実です。
インフレへの対抗策として、あるいは経済が不安定になったときの避難先としてビットコインを保有していたはずなのに、実際の市場の動きはまるで正反対でした。金(ゴールド)価格が歴史的な高値を更新し続ける一方で、ビットコインはなぜかハイテク株と同じようなタイミングで乱高下を繰り返す。画面に映るチャートを見比べながら、「あれ、これって思ってたのと違うな」と首をかしげたのは、きっとわたしだけではないはずです。
ここでは、2025年の市場動向を振り返りながら、なぜ今年これほどまでにビットコインが「金」としての役割を果たせなかったのか、そしてこれからの暗号資産とどう付き合っていくべきなのか、いち個人投資家としての視点で深掘りしていきます。専門家の難しい解説ではなく、実際に自分のお金を投じて一喜一憂したリアルな体験をもとに書いていきますので、ぜひご自身のポートフォリオと照らし合わせながら読んでみてください。
デジタルゴールドという物語の崩壊
そもそも、わたしたちがビットコインに「デジタルゴールド」という夢を見ていたのはなぜでしょうか。それは、ビットコインの発行枚数が2100万枚と決まっていて、政府がいくらでもお札を刷れる法定通貨とは違う「希少性」があるからです。ドルや円の価値が下がれば、相対的にビットコインの価値は上がる。株価が暴落するような危機のときこそ、無国籍な資産であるビットコインが輝く。そんなシナリオを信じて、コツコツと積み立ててきた人は多かったはずです。
しかし、2025年の現実はかなりシビアでした。世界情勢が緊迫し、インフレ懸念が再燃した場面を思い出してください。本来ならここで「有事のビットコイン」として買われるはずでしたが、実際に資金が向かったのは、やはり伝統的な「金(ゴールド)」でした。金価格が前年比で20パーセント、30パーセントと力強く上昇していくのを横目に、ビットコインはナスダックなどのハイテク株指数につられるようにして下落する場面が何度も見られました。
特に印象的だったのは、経済指標が悪化して株式市場全体が「リスクオフ(回避)」ムードになったときです。安全資産であるはずのビットコインが、真っ先に換金売りされたのです。まるで、「最もリスクの高いハイテク株」のような扱いを受けていました。わたし自身のポートフォリオでも、株の赤字を埋めるためにビットコインが値下がりするという、泣きっ面に蜂のような状況が発生し、分散投資の意味がまったくないことに愕然としました。
機関投資家の参入が変えてしまったもの
なぜこんなことになってしまったのでしょうか。いろいろ調べてみて、そして日々の値動きを観察していて感じたのは、「誰がビットコインを持っているか」が数年前とは劇的に変わってしまったことの影響です。
2024年に承認された現物ETF(上場投資信託)の影響が、2025年になって決定的な形で現れています。以前のビットコイン市場は、暗号資産を信奉する個人や、既存の金融システムを嫌う層がメインのプレイヤーでした。彼らは株が下がろうが世界が混乱しようが、簡単にはビットコインを手放さない「ガチホ」勢です。
ところがETFを通じて、ウォール街の巨大な機関投資家たちがメインプレイヤーになりました。彼らにとってビットコインは、あくまで数ある投資商品の中のひとつに過ぎません。彼らは高度なAIやアルゴリズムを使って、株式市場と連動させた取引を行います。金利が上がれば株と一緒に売るし、リスクが高まれば現金確保のために売ります。
つまり、皮肉なことに「一般に普及して買いやすくなった」ことによって、ビットコインは「株式市場との連動性(相関)」を極限まで高めてしまったのです。わたしたちが「デジタルゴールド」と呼んで大切にしていたその資産は、いつの間にか「ナスダックのレバレッジ付き商品」のような動きをするようになっていました。これが、2025年にわたしが感じた違和感の正体だったのです。
実際にチャートを重ねてみてわかったこと
この違和感を検証するために、わたしは自分の取引ツールの画面で、ビットコインのチャートと、米国の代表的な株価指数、そして金価格のチャートを重ねて表示させてみました。これまではなんとなく別々の画面で見ていたものを、ひとつの時間軸で並べてみたのです。
結果は残酷なほど明確でした。金価格がじわじわと右肩上がりを続けている局面で、ビットコインのラインは驚くほど株価指数と同じ波形を描いていました。株がくしゃみをすればビットコインは風邪をひく、という表現がぴったりなくらい、下落幅は株以上です。一方で、株が好調なときはビットコインも上昇しますが、その上昇の根拠は「通貨の避難先」としてではなく、「リスクを取って利益を狙う動き」そのものでした。
これを見て、わたしは自分のポートフォリオの設計が根本から間違っていたことを認めざるを得ませんでした。「株50パーセント、ビットコイン50パーセント」で持っていたとしても、それは分散投資ではなく、実質的に「リスク資産100パーセント」の状態で運用していたのと同じだったのです。これでは、市場全体が冷え込んだときに資産を守れるはずがありません。
2025年の冬、わたしがとった具体的な行動
この事実に気づいてから、わたしはポートフォリオの組み換えを行いました。これまでは「ビットコインは安全資産の一種」と心のどこかで甘えていましたが、それをきっぱりとやめました。具体的にやったことはシンプルですが、心理的には大きな転換でした。
まず、ビットコインを「ハイリスク・ハイリターンのテクノロジー株」という枠に分類し直しました。アマゾンやエヌビディアのような成長株と同じ引き出しに入れたのです。そう考えると、資産全体の中で占めるべき割合が見えてきます。これまでは「金」の代わりとして強気に保有していましたが、リスク管理の観点から、その比率を少し下げざるを得ませんでした。
そして、その売却した資金の一部を、皮肉にも本物の「金(ゴールド)」のETFや、現金のポジションに回しました。本当に資産を守りたいなら、デジタルな物語に頼るのではなく、歴史が証明している現物に頼るべきだという、極めて保守的な結論に至ったわけです。
さらに、ビットコインの積立設定も見直しました。これまでは「下がったときこそ買い時(押し目買い)」と信じて機械的に買い増していましたが、今は株式市場の先行指標をチェックするようにしています。特に米国の金利動向や雇用統計など、マクロ経済の数字が悪ければ、ビットコインも連れ安することを前提に、購入のタイミングを慎重に図るようになりました。
それでもビットコインを手放さない理由
ここまで書くと、「もうビットコインには失望したから全部売ったのか」と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。むしろ、役割が明確になったことで、以前よりもすっきりした気持ちで保有を続けています。
「デジタルゴールド」としての役割は失敗したかもしれませんが、ビットコインには依然として強力な魅力があります。それは、圧倒的な流動性と、世界規模で24時間取引できるネットワーク価値です。2025年の市場でも、上昇トレンドに乗ったときの爆発力は、他のどの資産クラスをも凌駕していました。
わたしは今、ビットコインを「守りの資産」ではなく、「攻めの資産」の筆頭として捉えています。ポートフォリオのエンジン役として、資産を大きく増やすチャンスを狙うための道具です。ただし、ブレーキ役(守り)は別の資産に任せる。攻めと守りをひとつの資産に期待するのをやめたことで、精神的な負担はかなり軽くなりました。
2026年に向けての新しい付き合い方
2025年の経験は、私たち個人投資家に「物語」と「現実」を区別することの重要性を教えてくれました。「ビットコインは金になる」という物語は美しかったですが、現実は「ビットコインは超高感度なリスク資産」でした。でも、それが悪いわけではありません。性質を正しく理解していれば、それに応じた扱い方をすればいいだけのことです。
これからの投資戦略として、わたしは以下の3つのポイントを意識することにしました。
ひとつめは、相関関係のチェックを怠らないことです。ビットコインの値動きを見るときは、必ず横に米国株のチャートを置いておくこと。もし株と逆の動き(逆相関)をし始めたら、そのときこそ「デジタルゴールド」の物語が復活する兆しかもしれませんが、今のところはその兆候はありません。
ふたつめは、本当の意味での分散です。暗号資産の中だけで分散しても(例えばビットコインとイーサリアムを両方持つなど)、市場全体が下がるときは一緒に下がります。暗号資産というバスケットの外にある資産、つまり債券やコモディティ、不動産などとのバランスをこれまで以上に意識する必要があります。
みっつめは、過度な期待を捨てることです。「有事になればビットコインが助けてくれる」という期待は、一度捨てたほうが賢明です。有事のとき、ビットコインは真っ先に売られるかもしれない。そう覚悟しておけば、暴落が来てもパニックにならず、「ああ、やっぱりリスク資産だもんね」と冷静に対処できます。
自分の資産は自分で定義する
結局のところ、市場がビットコインをどう定義しようと、自分のポートフォリオの中でどう定義するかは自分次第です。わたしにとって2025年は、ビットコインへの甘い幻想を捨て、シビアな投資対象として向き合い直す良いきっかけの年になりました。
みなさんのポートフォリオの中で、ビットコインは今、どんな顔をしていますか。頼れる金庫番でしょうか、それとも荒野を駆ける駿馬でしょうか。もし「金庫番」だと思って預けているのに、夜中に勝手に遊び歩いているようなら、一度役割分担を見直してみるのもいいかもしれません。
投資の世界に絶対はありませんが、現状を直視し、柔軟に考え方を変えていくことだけが、長く生き残る唯一の方法だとわたしは信じています。この冬、暖かい部屋でコーヒーでも飲みながら、ご自身の資産配分という名のチーム編成を、もう一度じっくり練り直してみてはいかがでしょうか。もしかしたら、そこに新しい発見があるかもしれません。