安売りされる中国製品の裏側にある歪んだ経済バランスの正体

煙を上げる工場群が立ち並ぶ工業地帯の中央を高速道路が貫き、左側には積み上げられたコンテナと車両、右側には歩行者と小規模な商店が見える都市の風景

最近ネットショッピングをしていると、驚くほど安い中国製品が目につく機会が増えましたね。でもその安さの裏側を少し覗いてみると、単なる企業努力だけでは説明できない中国経済の切実な事情が見えてきます。


今、中国の工場からは国内では到底使い切れないほどの膨大な物資が溢れ出しています。自国の消費者が財布の紐を固く結んでいるため、行き場を失った在庫が津波のように世界市場へ押し寄せているのが現状です。


中国経済を支えてきた成長モデルが、今まさに大きな曲がり角に差し掛かっています。


工場だけが回り続ける奇妙な光景


中国の生産現場では、電気自動車やリチウムイオン電池、太陽光パネルといった先端製品が休むことなく作られています。2024年のデータを見ても、中国の製造業投資は前年比で高い伸びを記録しており、生産能力は拡大する一方です。


ただ、ここで一つ大きな違和感があります。これほどまでに物を作っているのに、中国国内の景気が良いという話は聞こえてきません。むしろ、物価が下がり続けるデフレの足音が近づいています。


本来なら国内で消費されるべきモノが、国内で売れないからこそ、政府の補助金に支えられた圧倒的な低価格を武器に海を渡っています。これは健全な輸出拡大というより、国内の不況を世界に輸出しているような状態と言えるかもしれません。


誰もお金を使わなくなった本当の理由


なぜ中国の人たちは物を買わなくなってしまったのでしょうか。その最大の要因は、個人資産の約7割を占めると言われる不動産市場の冷え込みにあります。


かつては不動産価格が上がり続けることが当たり前で、それが消費の原動力になっていました。しかし、2021年の恒大集団の危機以降、不動産バブルは完全に弾け、人々の資産価値は目減りしています。


将来への不安が募れば、誰だって贅沢品を控えて貯蓄に励むようになります。若者の失業率も依然として高い水準にあり、今の中国で消費を盛り上げるのは至難の業です。この内需の空白を埋めるために、無理やり輸出のエンジンを回し続けているのが今の姿です。


世界中で高まる警戒感と包囲網


こうした中国の安値攻勢に対して、世界各国はこれまでにない危機感を抱いています。


  • アメリカは中国製の電気自動車に対して100パーセントもの関税を課す方針を決めました

  • 欧州連合も中国政府による不当な補助金を問題視し、追加関税の導入に踏み切っています

  • トルコやブラジルといった新興国でさえも、自国産業を守るために中国製品への障壁を築き始めています


かつての中国は、安くて便利な日用品を供給してくれる世界の工場として歓迎されていました。しかし今は、各国の基幹産業を脅かす存在として、厳しい監視の目にさらされています。


輸出に頼り切るモデルの限界点


今の中国経済は、片方のエンジンが止まった状態で、もう片方の輸出エンジンを限界まで吹かして飛行を続けているような危うさがあります。


もしこのまま輸出先でも門前払いされるようになれば、中国国内にはさらに在庫が積み上がり、工場の閉鎖や失業者の増大という深刻なシナリオが現実味を帯びてきます。


今の中国に必要なのは、建物を建てたり工場を増やしたりすることではなく、個人の暮らしを底上げして、人々が安心して消費できる環境を整えることではないでしょうか。社会保障を充実させ、将来の不安を取り除くといった根本的な治療なしには、この不自然なバランスは長くは持ちません。


私たちは、安く物が買えることを手放しで喜ぶのではなく、その背景にある世界規模の経済の歪みを冷静に見極める必要がありそうです。みなさんの周りにある中国製品の価格が、今後どう変わっていくのか注目してみるのも面白いかもしれません。