春闘5.26%賃上げ3年連続、実質賃金はプラスに転じたのか

日本の紙幣、実質賃金と物価上昇のイメージ

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連合が3年連続で5%超の賃上げを勝ち取った。その恩恵が直接届く労働者は全体の17%にすぎない。残りの83%、パート、非正規、中小企業の従業員にとって、この歴史的な数字は他人事として新聞の見出しを流れていく。誰が設計し誰が得をしているのかを問わずに5.26%という数字を読めば、30年越しの転換点を祝福する話で終わるが、実態はまるで違う構造が動いている。


トヨタやソニーが大幅に引き上げれば、中小企業の1%台の上昇を吸収して平均を押し上げます。その構造を脇に置いたまま「日本の賃金が上がった」と言い切るのは、少し急ぎすぎではないでしょうか。


30年かかってようやく届いた「当たり前」

春闘賃上げ率と実質賃金の推移(2022年〜2026年)

春闘賃上げ率と実質賃金の推移(2022年〜2026年)

春闘賃上げ率 実質賃金の状況 主な背景
2022年 約2%台 マイナス 物価上昇が賃金を上回る
2023年 5%超(1年目) マイナス継続 食料品・光熱費の高騰
2024年 5%超(2年目) ゼロ近辺 円安・輸入コスト圧力
2025年 5%超(3年目) プラス圏へ 物価上昇の落ち着き
2026年 5.26% プラス定着の見方 人手不足・日銀利上げ

出典:記事本文より

Source: 記事本文より


1990年代のバブル崩壊以後、日本の賃金がほぼ横ばいだったことはよく知られています。ただ「横ばい」という言葉は実態を少しやわらかくしすぎていて、実際には実質賃金が断続的に下がり続けた期間が長くありました。物価が多少上がるだけで、手取りの価値は静かに目減りしていった。


今回の春闘で連合が3年続けて5%超を引き出したことは、その流れに対する一つの区切りです。連合という組織が交渉力を取り戻しつつあること、それ自体も数字の背後にある変化として見ておく価値があります。2024年以前の春闘では「満額回答」というニュースが珍しかったのに、最近は当たり前のように出てくるようになりました。企業の姿勢が変わっています。


ただし変わった理由は美談ではありません。構造的な人手不足と、円安による輸入コスト上昇という二つの圧力です。賃金を上げなければ人が来ない。社員の生活コストが上がっているから補填せざるを得ない。善意よりも必要性が動かしているという見方のほうが、現場感覚としては正確です。


実質賃金がプラスに向かうとき、何が変わるか

春闘賃上げの恩恵が届く労働者の構成

春闘賃上げの恩恵が届く労働者の構成

全労働者に占める割合

17%
83%
大企業正規
恩恵が直接届かない層

「恩恵が届かない83%」の内訳(推計)

非正規
中小企業
パート
自営業
非正規雇用
中小・零細企業
パートタイム
自営業等

大企業の高い賃上げ率が平均を押し上げ、中小企業の1%台の上昇を吸収している構造があります。

出典:記事本文より(連合加盟組合員の割合)

Source: 記事本文より(連合加盟組合員の割合)


名目賃金が上がっても、物価の上昇率が賃金上昇率を上回れば生活は実際には苦しくなります。2022年から2024年にかけての日本はまさにその状態で、数字の上では賃金が上がっていても、スーパーのレジで払う金額は確実に増えていました。


コンビニのおにぎりや弁当の価格帯が以前より高い水準に移行しつつあるという声があり、近所の定食屋のランチも値上がり傾向にあります。日々の買い物で感じていた「なぜ財布が軽くなるのか」という感覚は、実質賃金のマイナスとして数字でも裏付けられていたわけです。


2026年の春闘データと物価動向を踏まえると、実質賃金がプラス圏に定着しつつあるという見方が出ています。ただ「ようやくイーブンに近づいた」という状況に近く、安堵するには早い。体感として「少し楽になった」と感じているとすれば気のせいではないかもしれませんが、賃上げ競争に完勝したわけではありません。


恩恵が届かない場所

賃上げの恩恵が波及するプロセスと現在地

賃上げの恩恵が波及するプロセスと現在地

ステップ 1 / 完了

大企業・連合加盟組合で5.26%賃上げ

3年連続5%超、満額回答が相次ぐ

ステップ 2 / 進行中

名目賃金上昇が実質賃金をプラス圏へ

物価上昇が落ち着き、ようやくイーブンに近づく

ステップ 3 / 途上

中小企業・非正規・パートへの波及

中小の賃上げ率は依然低水準、格差が課題

ステップ 4 / 未達

消費拡大、デフレ心理の払拭

節約行動の変化、生活実感の改善には時間が必要

出典:記事本文より

Source: 記事本文より


春闘の恩恵は主に大企業の正規雇用労働者に届きます。連合加盟組合の組合員がカバーする比率は全労働者のうちの一定の少数にとどまるとされており、残りの大多数は春闘の結果が直接反映される構造にいません。


パートタイム労働者、非正規雇用、中小・零細企業の従業員。これらの層に5%超の賃上げが届いているかというと、確認が難しい部分が多いです。中小企業の賃上げ率は大企業を下回る傾向が続いているという見方が多く、その差の大きさについては引き続き精査が必要です。


平均値が上がっても分布の裾が動かなければ、生活実感の改善は偏ったものになります。今のところ得をしているのは大企業の正社員と、求人競争の激しい特定職種の従事者です。そこから外れた層へ恩恵がいつ、どのくらい波及するかは、まだ見えていません。


賃金が上がる社会で変わること、変わらないこと


2026年に入ってからの物価動向を見ると、食料品や光熱費の上昇は落ち着きを見せているものの、完全に収まったわけではありません。日銀の金融政策も、利上げのペースをめぐって慎重な姿勢が続いています。PayPayやLINE Payのキャッシュレス決済の履歴を見れば、自分がどこでいくら使っているかがすぐわかります。2023年と2025年の同時期の支出を比べると、食費だけで月に数千円単位で増えている月があります。賃金が上がっていても、その差が完全に埋まっているかというと、まだ不安定な時期が続いています。


30年近く賃金が上がらなかった社会には、それに適応した行動様式が根付いています。節約を美徳とし、値上げへの抵抗感が強く、価格が上がった商品を別の安い選択肢で代替することを当然とする。そういう消費行動のパターンは、賃金が少し上がったくらいでは急に変わりません。デフレ時代に育った世代は「物の値段は下がるもの」という感覚が身についていて、価格が上がることへの心理的抵抗が、賃金上昇の恩恵を実感に変えるスピードを遅らせています。


賃金が上がり始めると、可処分所得の一部が投資や資産形成に向かう動きが出てきます。2024年以降、暗号資産取引所などでは若年層を中心に口座開設が増えているという声が業界内で聞かれますが、その実態については確認が難しい部分もあります。賃金上昇は日銀の利上げ余地を広げ、利上げが進めば円高方向への圧力が生まれます。生活が楽になる局面と、円建て資産の価値が動く局面が同時に訪れる可能性があり、家計の判断はより複雑になります。


3年連続の5%超という数字が本物であるとすれば、次の問いは「その恩恵が経済全体に循環するかどうか」です。大企業の正社員から始まった波が、中小企業、非正規、自営業へと伝わっていくかどうかを、少し懐疑的に、しかし期待しながら見ています。数字が正しいとしても、生活実感が追いつくまでには、もう少し時間がかかりそうです。