
暗号資産投資家の一定数が一万円超を保有し、一部が週に複数回取引しているとの調査結果もあるとされる裏で、正月のお年玉をbitFlyerで少しずつビットコインに変えていく甥っ子の姿があります。この頻繁な取引という構造、若者の経済的自立の証というより、取引が増えるほど手数料収入が積み上がる取引所側の利益構造と静かに噛み合っているように見えます。それでも人口減少を解決する筋書きに結びつけるのは早計です。コンビニのレジで暗号資産決済を目にすることがほとんどない現実が、この熱狂の正体を静かに問いかけてきます。若者はなぜ暗号資産に向かい、それは本当に何かを変える力を持つのでしょうか。この問いを、投資行動、取引所の事情、人口減少説、そして生活の実態という順に追っていきたいと思います。
お年玉の使い道が語る、投資行動の実態
若者が暗号資産取引を繰り返す構造
Source: 記事本文の記述に基づく構造整理
先述の調査データを、博打好きが増えたと片付けるのは早計です。私が話を聞いた範囲でも、給料が上がらない、貯金しても金利がほぼゼロ、といった状況の中で、何かしないと将来が動かないという感覚が根底にあるように見えました。銀行預金では資産が実質的に減っていく感覚を、二十代のほうが数字で正直に受け止めているのかもしれません。
気になるのは、この頻繁な取引という部分です。週に何度も売買しているというのは、長期的な資産形成というより短期的な値動きへの反応に近い可能性があります。この熱狂の裏側に誰の利益があるのか、取引所側の事情から考えてみたいと思います。
手数料構造から見える取引所側の事情
暗号資産保有と生活実態のギャップ
| 観点 | 語られる期待 | 実際の状況 |
|---|---|---|
| 決済への浸透 | 生活を変える決済手段 | コンビニで直接決済不可 |
| 資産の使途 | 住宅資金や将来資金へ | 円に換金されず画面内に保有 |
| 人口減少への影響 | 結婚・子育てへの前向きさ | 住宅費・保育など無関係な要因が主因 |
Source: 記事本文の記述に基づく整理
Coincheckやその他の国内取引所は、取引が増えるほど手数料収入が増える構造になっています。若い世代が週に何度も取引すればするほど、取引所側の収益は積み上がる仕組みです。悪意のある仕組みという話ではありません。単純にビジネスモデルとしてそうなっているというだけです。
若者の取引頻度の高さは、本当に彼らの経済的な自主性の高まりを示しているのでしょうか。それとも取引所のアプリのUIが売買のハードルを極限まで下げていることの結果なのでしょうか。私はどちらか一方だと断言する自信はありません。おそらく両方が重なっているのだと思います。
PayPayやLINE Payのような決済サービスがあれほど日常に浸透したのも、使いやすさと日々の小さな成功体験の積み重ねがあったからです。暗号資産の取引アプリも同じ設計思想で作られている以上、頻繁な取引が起きるのは当然の帰結だと考えられます。取引所側の利益構造とは別に、若者の熱狂そのものが社会構造を変える力になるという主張は成り立つのでしょうか。もう少し大きな話をしてみます。
人口減少との関連説は成り立つのだろうか
結婚・子育てを先延ばしにする要因の内訳
Source: 記事本文で挙げられた要因に基づく構成イメージ
ある暗号資産関連企業の経営者は、日本が分散型で開かれた金融の未来への舞台を整えていると表現していました。若者が暗号資産で経済的な自信をつけ、それが結婚や子育てへの前向きさにつながり、ひいては日本の人口減少という構造的な問題の緩和に寄与するという筋書きです。正直に言うと、私は最初この論理にかなり惹かれました。
ですが、実際に近所の子育て中の家庭や、これから結婚を考えている知人たちの話を聞く中で、この見立てはやや性急だったと今は思っています。結婚や子育てをしない、あるいは先延ばしにする理由は、住宅費、保育の受け皿、働き方の柔軟性の欠如など、ビットコインの値動きとはほぼ関係のない要因が積み重なっているのです。数十万円規模の暗号資産の利益が出たとしても、それが東京や大阪での住宅購入の頭金になるほどの規模になることは、多くの人にとって現実的ではありません。
暗号資産への関心の高まりは、既存の年金制度や資産形成の手段への信頼が薄れていることの表れとして見るほうが自然でしょう。将来への希望というよりは、今ある不安への対処という側面が強いのではないでしょうか。この不安と現実のギャップを確かめるには、実際の生活の中で暗号資産がどう使われているかを見る必要があります。
コンビニのレジに映る普及度の実態
セブンイレブンやファミリーマートのレジで、実際にビットコインで支払いをしている人を見たことがあるかと聞かれたら、私はまだほとんど見ていません。国内の主要コンビニエンスストアは暗号資産による直接決済に対応しておらず、暗号資産を利用したい場合はギフトカードを購入して間接的に使う方法などにとどまっています。
若い世代が暗号資産を保有しているというデータと、それが日常生活の決済に使われているというデータは、まったく別の話です。多くの場合、保有されている暗号資産は日本円に換金されないまま、投資対象として画面の中に留まっています。暗号資産は今のところ、生活を直接変える道具というよりは、将来への一種の賭け金のような位置づけにあると考えたほうが実態に近いと思います。それ自体は否定すべきことではありません。
甥っ子がビットコインを買っているのは、将来の家族計画のためではなく、単純に他の選択肢よりも身近で始めやすかったからだと、本人は笑いながら話していました。取引所の利益構造がその手軽さを支え、コンビニのレジには何の変化も起きていません。この二つの現実の間に、人口減少を解決する筋書きが入り込む余地はほとんどないのです。若者の熱狂は社会を動かす物語ではなく、不安な時代を生きるための、ごく個人的な小さな賭けなのだと捉えるほうが、実態に近いのだと思います。