会社員Aさんの入院費100万円が5万7600円に収まった

会社員Aさんの入院費100万円が5万7600円に収まった

会社員Aさんは医療費100万円のうち8万7430円だけ負担しました


年収500万円前後の会社員が入院して医療費が100万円かかっても、最終的な自己負担はわずか8万7430円で済んでしまいます。一方で、申請という手続きをたった一つ忘れるだけで、本来戻ってくるはずの21万2570円は永遠に受け取れなくなります。同じ医療費100万円でも、行動一つで結果がこれほど変わるわけです。



上限額は所得に応じて段階的に決まります。高所得者ほど上限は高く、低所得者や70歳以上で年金生活に入り所得が下がった人ほど上限は低くなる仕組みです。深田晶恵さんが解説する例では、80代から90代の義父母のような後期高齢者の場合、退職後に所得が大幅に下がっていれば、自己負担上限額はさらに下がります。年齢と所得、この2つの軸で上限額が変動する点が、この制度の基本的な骨格です。



治療が長期化し、過去12カ月の間に一定回数以上上限額に達した場合には、多数回該当という扱いになり、上限額はさらに下がります。1カ月あたりの負担が長期治療では軽減される、この仕組みからは、単発の大病だけでなく慢性的な治療にも一定の配慮をしている制度の設計思想が見えてきます。



差額ベッド代8437円と先進医療費278万円が高額療養費の対象外になります


ここまで見た自己負担限度額の仕組みは心強いものですが、これはあくまで高額療養費制度の対象範囲内に医療費が収まる場合の話です。実際には、この制度の自己負担限度額に含まれない費用が複数存在します。深田さんが説明するところによると、健康保険で頼れるものの1位は健康保険そのもの、2位が貯蓄や家族の収入、3位が民間の医療保険という順序になっています。貯蓄が十分にあるなら民間の医療保険は必須ではないという考え方も成り立ちますが、その判断をするには対象外費用の規模を知っておく必要があります。



代表的なものが差額ベッド代です。厚生労働省の令和4年の報告によると、1人用個室の差額ベッド代は1日あたり平均8437円。10日間個室に入院した場合、単純計算で8万円以上が全額自己負担となり、これは高額療養費の払い戻し対象にはなりません。もう1つの代表例が先進医療費です。がん治療で使われる陽子線治療は1件あたり平均約278万円、重粒子線治療は1件あたり約319万円。これらも保険適用外の技術料部分は全額自己負担になります。ただし先進医療の種類は年々見直されており、現在自己負担となっている技術が将来的に保険適用に切り替わることもあるので、その点は頭に入れておいたほうがいいでしょう。



窓口での支払いが一時的に重くなる場合には、高額医療費貸付制度という仕組みも用意されています。協会けんぽの場合、高額療養費として還付される予定額の8割相当を無利子で借りられる仕組みがあり、申請から還付までの間の資金繰りを助けてくれます。差額ベッド代8万円以上、先進医療費278万円から319万円。この数字を見れば、高額療養費制度だけでは対応できない領域が確かに存在することがわかります。この差額こそが、貯蓄だけで備えるか民間保険を組み合わせるかを分ける境界線になります。



申請しなければ21万2570円の払い戻しは戻ってきません


対象外費用への備えを検討する一方で、対象内の費用についても見落としがあります。第一生命の解説例では、窓口負担30万円に対して自己負担限度額が8万7430円だったケースが示されています。申請すれば21万2570円が高額療養費として支給されますが、申請しなければこの差額は一切戻ってきません。マイナンバーカードの健康保険証を利用している場合や、70歳以上で住民税非課税世帯に該当しない場合は、窓口での支払い自体が自己負担限度額までに抑えられる仕組みが整ってきています。それ以外のケースでは、申請という手続きを踏まなければ本来受け取れる払い戻しを受け取れません。



もう1つ実務上重要なのが、健康保険組合などが独自に設けている付加給付です。法定の高額療養費制度の上限額よりもさらに低い自己負担額に設定している組合もあり、勤務先の健康保険が協会けんぽか組合健保かによって、実際の負担額が数万円単位で変わることがあります。自分の加入する健康保険の給付内容を事前に確認しておくこと。これが、実際の自己負担額を正確に把握する第一歩になります。



治療期間中は医療費以外に収入減という問題も生じます。入院や療養で仕事を休めば、傷病手当金など別の制度で一定の補填は受けられますが、収入そのものが完全に元通りになるわけではありません。差額ベッド代8万円、先進医療費278万円という対象外費用の規模と、治療期間中の収入減という要素を合わせて考えると、貯蓄だけで備えるか、民間の医療保険で保障範囲を補うかは、加入している健康保険の付加給付の有無と家庭の貯蓄額に応じて、それぞれの家庭で個別に判断すべき事項です。



医療費100万円が実質8万7430円になるか、21万2570円を失ったままの30万円近くになるか。この差を分けるのは、制度の複雑さではなく申請するかどうかという一つの行動です。差額ベッド代や先進医療費のような対象外費用への備えは貯蓄と保険で個別に判断すべきものですが、対象内の払い戻しだけは、忘れずに申請すれば誰でも確実に受け取れます。