
財務省の有識者会議はこれまで複数回にわたって開催されてきたとされますが、公開されたのは制度の骨格だけで、誰が費用を負担するのかという核心はいまだ白紙のままです。保有上限は銀行の預金流出を防ぐための数字にすぎないのに、利用者の利便性という言葉で語られています。50万円という保有上限すら仮の値でしかない今、コンビニのレジでデジタル円を使う日が来ても、その手数料を誰が支払うのかだけは何度も議論を経ても公開されていません。
キャッシュレス決済の変化を10年以上見てきましたが、今回のデジタル円の話は少し様子が違うと感じています。bitFlyerやCoincheckで暗号資産を扱っている人にとっても、PayPayやLINE Payで日常の支払いを済ませている人にとっても無関係な話ではありません。既存の決済インフラを揺らす力を持っているからです。会議で実際に何が決まり、何がまだ決まっていないのか、順番に見ていきましょう。
決まったのは経済モデルなのか、それとも技術なのか
デジタル円をめぐる利害関係の連鎖
Source: 記事内容に基づき作成
専門家会議というと、技術的な細部を淡々と詰めていく場だと考える人が多いはずです。ところが今回の会合資料を追ってみると、話し合われていたのは技術ではなく経済モデルそのものでした。デジタル円を発行する日本銀行と、実際にそれを流通させる銀行やセブン-イレブン、決済事業者との間で、コストをどう分けるかという議論です。
この会議では「負担」と「利便性」という言葉が対で使われています。企業側の負担を減らしながら、参加する利益を増やす。言葉にすれば当たり前ですが、これはファミリーマートのようなレジ端末を持つ事業者に、追加コストを払わせずにデジタル円を扱わせたいという意味です。誰がその差額を払うのか、答えはまだ出ていません。
会議が重ねられてきた回数の多さが、そのまま未決事項の多さを表しているように見えます。この決まっていないコスト分担という骨格の問題は、保有上限の議論にもそのまま影を落としています。
持てる金額に上限はできるのか
デジタル円をめぐる決定事項と未決定事項
| 論点 | 現状 | 公開状況 |
|---|---|---|
| 制度の骨格 | 経済モデルとして議論済み | 公開 |
| 保有上限額 | 50万円は一部の目安値 | 仮の値 |
| コスト負担者 | 日銀・銀行・事業者・利用者のどこか | 未公開 |
| 手数料水準 | 普及後に導入される可能性 | 未公開 |
| 利用開始時期 | コンビニ等での利用は将来的に想定 | 未公開 |
Source: 記事内容に基づき作成
デジタル円は銀行預金と同じように無制限に持てるものだと考えている人は多いはずです。実際には違います。報告書で言及されているとされる保有上限に関する概念こそが、今回の会議で最も難しい論点として残されています。
上限が必要な理由は単純です。デジタル円に資金が集中しすぎると、銀行預金からお金が流出してしまうからです。銀行から見れば死活問題です。仮に、一部で言われているような数十万円程度の保有上限が設定された場合、日常の買い物には十分でも、まとまった資金の保管先としては使えません。
この上限が誰の都合で決まるのかが気になります。銀行の預金流出を防ぐためなら、それは銀行のための上限です。利用者の利便性のためだと説明されても、実際の数字を見ればどちらの利益が優先されているかが見えてきます。上限額そのものより、その根拠が誰の口から語られるかに注目したほうがよさそうです。50万円という数字も、あくまで一部で挙げられている目安にすぎません。制度の骨格は固まっても、生活に直結する部分がまだ何も決まっていないということです。
保有上限が誰のために設計されるかという問いは、結局コストを誰が負担するのかという問いと同じ根を持っています。
誰がコストを負担するのか
保有上限をめぐる二つの立場
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銀行側の視点
預金流出防止
上限が低いほど銀行預金は守られる
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利用者側の視点
日常利便性
まとまった資金の保管には使えない
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Source: 記事内容に基づき作成
新しい決済インフラのコストは国が持つものだと思われがちですが、実態は違います。最終的なコスト分担モデルは、今回の会合で明言されなかった論点のひとつです。日本銀行、参加銀行、決済事業者、そして最終的には利用者のどこかにコストが乗ることになります。
過去のキャッシュレス決済の導入では、最初は無料をうたって普及させ、後から手数料を導入するというパターンが繰り返されてきました。PayPayの決済手数料が段階的に変わってきた経緯を覚えている人も多いはずです。デジタル円がこの前例をなぞるとすれば、今の負担軽減策は普及期の呼び水にすぎないという見方もできます。
ここで、私自身の過去の見立てが外れた話をします。数年前、キャッシュレス決済の手数料は競争によって自然に下がると予想していました。実際には、事業者間の競争よりも規制の設計のほうが手数料水準に影響を与えるケースが目立ちました。デジタル円のコスト分担も、市場競争ではなく制度設計そのもので決まる可能性が高いと今は考えています。
コンビニのレジでデジタル円が使えるようになる日は来るはずです。ただ、その手数料を最終的に誰が負担するかによって、店頭の値段や決済の使い勝手は変わってきます。保有上限も手数料負担も、根を同じくする「誰の都合で制度が組まれるのか」という一点に集約されます。度重なる会議を経てもなお、この核心の数字だけが公開されていない。それが今のデジタル円議論の実態です。