
退職金には所得税と住民税が分離課税というかたちでかかります
退職金を受け取るとき、税金でどれだけ引かれるのか不安に感じる人は多いと思います。実際には、勤続30年の会社員が受け取る退職金は1500万円までなら税金がゼロになります。勤続年数に応じて控除額が積み上がる仕組みがあり、その恩恵を最大限に受けられるかどうかは、たった1枚の申告書を提出したかどうかで大きく分かれてしまいます。この記事では、その仕組みと、手続きを誤った場合に生じる差について具体的に見ていきます。
退職所得の金額は、退職金の額面から「退職所得控除額」を差し引き、その残りにさらに2分の1を掛けて算出します。退職所得控除額は勤続年数によって決まり、勤続年数が20年以下の場合は1年あたり40万円、20年を超える部分については1年あたり70万円が控除されます。たとえば勤続30年であれば、800万円(40万円×20年)に加えて70万円×10年の700万円を足した1500万円が控除額となります。控除額よりも退職金の額面が少なければ、課税対象額はゼロとなり税金はかかりません。
所得税に加えて、2037年までは復興特別所得税も課税されます。これは2011年の東日本大震災復興のための財源確保を目的として創設された税金で、所得税額に2.1%を上乗せする形で計算されます。住民税については、退職所得に対して都道府県民税と市区町村民税を合わせて一定の税率が課される仕組みです。所得税は勤続年数と退職金額に応じて税率が変わる累進課税ですが、住民税は原則として一律の税率になっています。長く勤めた人ほど控除額が積み上がり、税負担が軽くなるよう設計されている点は、退職金制度全体を見渡すうえで押さえておきたいポイントです。
この控除額の仕組みを正しく機能させるには、申告書の提出が欠かせません。令和8年からは短期退職手当等の課税ルールも変わる点に注意が必要です
公益財団法人生命保険文化センターの解説によると、退職金額が退職所得控除額を下回る場合は非課税になり、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職金支払いの際に所得税・復興特別所得税・住民税が源泉徴収されるため、原則として確定申告は不要です。納税は退職金受け取り時点で完了することになります。一方、この申告書を提出しなかった場合は、退職金額の20.42%が一律で源泉徴収され、後日自分で確定申告をして正しい税額との差額を精算する必要があります。
国税庁の資料では、退職所得控除額の計算方法について勤続年数に応じた区分が示されています。勤続年数が20年以下の場合は40万円に勤続年数を掛けた金額(80万円に満たない場合は80万円)が控除額となり、勤続年数が20年を超える場合は800万円に、20年を超える部分について70万円を掛けた金額を加算した額が控除額になります。令和9年以降の退職金については、障害者になったことが直接の原因で退職した場合の取り扱いなど、控除額の計算にいくつかの見直しが加えられる点も国税庁の資料で示されています。
こうした控除額の計算方法の見直しと並んで、近年注目されているのが「短期退職手当等」に関する課税ルールの見直しです。勤続年数が5年以下の短期勤務者が受け取る退職金のうち、退職所得控除後の金額が一定額を超える部分については、これまで適用されていた2分の1課税が適用されなくなりました。短期間で退職と再就職を繰り返すことで税負担を軽減する手法に対応するための仕組みです。転職が一般化した働き方の変化を背景に、退職金の税制も実態に合わせて調整されてきています。短期間で転職を重ねるキャリア設計を選ぶ人は、税負担が想定より重くなる可能性を事前に知っておいたほうがいいでしょう。
控除額やルールを理解したうえで、次に確認すべきは申告書提出の有無が実際の税額にどう影響するかです。確定申告が還付につながるケースと申告書未提出のリスクを理解しておくべきです
りそなグループの解説記事では、退職所得の受給に関する申告書を提出していれば、原則として確定申告は不要としつつも、退職所得以外の所得から所得控除を引ききれない場合には、確定申告によって源泉徴収された所得税の一部が還付される可能性があると説明されています。退職した年に医療費控除や住宅ローン控除を受ける場合、あるいは年の途中で退職して年間所得が少なくなった場合などは、確定申告をすることで納めすぎた税金が戻ってくることがあります。
反対に、退職所得の受給に関する申告書を提出しなかった場合は、退職金額面の20.42%という比較的高い税率で源泉徴収されます。この税率は退職所得控除を考慮しない一律の数字なので、多くの人にとっては本来納めるべき税額よりも多く差し引かれている状態になります。この場合は自分で確定申告をしなければ、過大に納めた税金は戻ってきません。申告書の提出を忘れたまま放置してしまうと、本来受けられる控除の恩恵を受けられずに終わってしまいます。
ここまで見てきたように、退職金にかかる税金は最大1500万円まで無税になるほど優遇される一方、申告書1枚の提出漏れが20.42%の源泉徴収という重い差につながります。申告書を提出して制度を正しく使いこなせる人と、手続きを怠って過大な税金を納め続ける人との間には、この1枚の紙の有無だけで大きな差が生まれるのです。転職や独立を考えている人、退職金以外の所得状況が変わりやすい人は、退職所得控除の計算方法と確定申告の要否を事前に確認しておくことで、思わぬ税負担や見落としを防げます。