ドル終焉説は言い過ぎです ― 2025年、緑の紙幣はまだ強い


世界の外貨準備でドルが占める割合は、2025年第2四半期時点で56.32%です。2000年の約70%から確かに下がりましたが、まだ圧倒的な首位を保っています。SWIFT国際決済網では、ドルとユーロがそれぞれ約4割ずつを占めていて、人民元はわずか2%程度です。


数字で見るドルの現在地


グローバル貿易決済の5割近くがドル建てです。ユーロが2割強、英ポンドが1割弱、人民元は数パーセントにとどまっています。


外貨準備の通貨別構成を見ると、もっとはっきりします。IMFのデータによれば、ドルが56.32%、その他の通貨(ドル・ユーロ・人民元を除く)が20.43%です。非伝統的通貨の割合が増えているのは事実ですが、ドルの代わりになるほどではありません。


金の保有比率が各国中央銀行で上昇しているのは、ドル依存度を下げようとする動きの表れです。ただ、金は決済手段というより保険です。


脱ドル化の動きがある理由


中国とロシアを中心としたBRICS諸国は、自国通貨での決済を増やしています。中国は独自の決済網CIPSを運営中です。


問題は代替手段がないことです。人民元は資本規制が厳しく、国際化には明確な限界があります。IMFの研究によれば、中国の資本口座の開放度は低所得国より低い水準です。


ロシアは2014年からNSPKという独自の決済システムを作りましたが、これは国内向けです。国際取引では依然として制約が多くなっています。


米国金融市場の規模と深さ


米国の金融市場には誰も追いつけません。2025年5月時点で、米国債の最大保有国は日本(約1兆1350億ドル)、次いで英国、中国は3位に転落して7563億ドルです。


日本は世界最大の米国債保有国として、長年その地位を保っています。外貨準備の大半が米国債で運用されていて、これは円安抑制や安全資産志向の表れです。為替介入の際には米国債を売却してドルを調達することもありますが、基本的には安定保有を続けています。


米国のGDPが世界全体の15%程度なのに対し、ドルが外貨準備で占める割合が56%を超えているというこの差が、ドルの特権を物語っています。


金利政策ひとつ取っても明らかです。米国が金利を上げれば、世界中の国が資本流出と通貨安を防ぐために追随します。逆に下げれば、世界に流動性が供給されます。


デジタル時代でもドルは残るか


中央銀行デジタル通貨(CBDC)やステーブルコインが広がって、ドルを迂回する取引が可能になってきました。国際決済銀行が主導する多国間CBDCプロジェクトも進行中です。


ただ、デジタルドルの議論も進んでいます。トランプ政権は2025年にCBDC導入を禁止する動きを見せましたが、民間のドル建てステーブルコインは活発です。これらはむしろドル覇権を強化する道具になる可能性があります。


安全資産としての信頼は続いている


2025年4月、トランプ大統領の高関税発表でVIX指数が22から52に跳ね上がったとき、ドル/ユーロは6.5%下落しました。安全資産としての信頼が揺らいだという分析もありました。


でも長期的に見れば、ドルは危機のときに選ばれる通貨です。各国中央銀行が米国債の満期を短期化しているのは、収益より流動性を重視している証です。


2025年2月時点で、中央銀行は長期国債を196億ドル売る一方、短期国債を616億ドル買い増しています。リスク回避の姿勢が強まっているということです。


基軸通貨の交代には何十年もかかる


歴史を見ると、基軸通貨が変わるのは一瞬ではありません。英ポンドが米ドルに座を譲ったのも数十年かかりました。


中国経済が米国を追い越すという予測もありますが、10年以内は難しそうです。両国とも成長を続けているので、経済規模の差は現状維持になりそうです。


BRICS共通通貨が実現しても、短期的には金融市場の混乱を招くだけでしょう。各国通貨の交換性や為替変動の問題があって、初期の混乱は避けられません。


2025年現在、ドルの支配力は以前より弱まりましたが、代わりになる通貨はまだありません。ドル終焉説は、今のところ言い過ぎです。


フランス政権、組閣14時間で崩壊しても投資家が国債を買い続ける理由