ナシム・タレブが警告する「ホワイトスワン」—36兆ドル米国債務危機の実像


2025年10月9日、ブルームバーグのインタビューでナシム・タレブ氏が率直に語りました。「将来のある時点で奇跡が起きない限り、われわれは債務危機に向かっている」。『ブラック・スワン』の著者として知られる彼の言葉は、金融市場に重い問いを投げかけています。


予測可能だからこそ怖い危機


ブラック・スワンは予測不能な衝撃です。対してホワイトスワンは、目に見えているのに多くの人が手遅れになるまで無視するリスクを意味します。タレブ氏は現在の米国債務問題をホワイトスワンと定義しています。


米国の国家債務は2025年3月時点で36兆560億ドルに達しました。GDP比で124.3%を超え、第二次世界大戦以降で最高水準です。誰もがこの数字を知っています。しかし対応は進んでいません。


利払いが国防費を超えた現実


注目すべきは債務の規模ではなく、その利払い負担です。2024年から米国政府の利払い費用は、メディケアと国防支出の両方を上回りました。年間で約1,200兆円を超える利息を支払っています。


タレブ氏はグリニッジ・エコノミック・フォーラムで語りました。「債務の利払いが予算項目の中で最大になったとき、それは問題だ。個人であれ、企業であれ、国家であれ、同じことだ」。2025年には9兆2,000億ドルの米国債が満期を迎えます。これを高い金利で借り換える必要があります。


日本の投資家が直面するジレンマ


世界第2位の米国債保有国である日本にとって、この問題は他人事ではありません。日本の米国債保有額は2021年11月の1兆3,255億ドルをピークに減少が続いています。2025年現在、多くの日本の機関投資家が米国債から距離を置き始めています。


しかし完全に見切りをつけたわけではありません。日本の投資家は米国の株式や社債に記録的な金額を振り向けており、これらへの投資額は初めて1兆ドルを超えました。リスクの高い資産にシフトしているのです。


2025年5月、格付け機関ムーディーズが米国債の格付けを最上位から1段階引き下げました。既定路線とはいえ、長期的には米国債の買い手を減らす影響は避けられません。


奇跡はどこにもない


「議会が債務上限の適用先延ばしを続け、正しい行いがもたらす結果を恐れて合意を繰り返す限り、いずれは債務スパイラルに陥る」。タレブ氏の2024年1月の発言は、今も重みを増しています。「債務スパイラルは死のスパイラルに似ている」。


米国のスパイラルは最終的にどうなるのかという質問に対し、タレブ氏は「外から何か入ってくるか、あるいは奇跡が必要になる」と答えました。AI技術が解決策になるかと尋ねられても、彼は懐疑的でした。「多分助けにはなる。しかし確実ではない」。


強気とヘッジの両立が鍵


タレブ氏が顧問を務めるユニバーサ・インベストメンツは、株式に対して強気の姿勢を保っています。それでも彼は防御策の必要性を強調します。「市場に対する極端な強気姿勢と、ヘッジの強い必要性は、組み合わさっている」。


真のリスク管理とは、強気の市場見通しとヘッジのバランスだと言います。「暴落を生き延びられなければ、利益を得ることなど決してできない」。この言葉は、2020年のコロナショック時に4,000%を超える収益を上げた実績に裏打ちされています。


バーベル戦略という選択肢


タレブ氏が提唱する防御戦略は「バーベル戦略」です。資産の85~90%を極度に安全な資産に配置します。国債や銀行預金など、原本損失リスクがほぼない資産です。


残りの10~15%は変動性の高い資産に投資します。オプションやベンチャー投資など、極端な事象で大きな利益を狙える資産です。この両極端な配分が、予測不能な危機から資産を守ります。


今こそヘッジを考える時


2025年10月現在、米国株式市場は何度も最高値を更新しています。しかしタレブ氏は警告します。現在の真の危険は、目に見えているにもかかわらず多くの人が無視するホワイトスワンにあります。


「私にとってのブラック・スワン、つまり予期せぬ出来事とは、われわれをこの閉塞状態から救い出すような奇跡だ」。彼の言葉には皮肉が込められています。プラスのサプライズだけが残された唯一の可能性だと。


36兆ドルの債務は数字ではありません。日本を含む世界経済全体を揺るがす時限装置です。予測できるからこそ、今のうちに備えるべきなのです。


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