金価格が史上初めて1オンスあたり4,000ドルを突破しました(2025年10月時点)。この歴史的な高騰は、アメリカの金利動向といった短期的な要因ではなく、世界経済の根幹が変わりつつある「構造変化」を映し出しています。その本質は、各国が静かに米ドルへの信頼を引き下げ、代わりに金を選び始めているという事実です。この「脱ドル化」の潮流は、日本円の価値や私たちの資産形成にも大きく影響します。
世界の中央銀行が「金」を買い続ける本当の理由
金価格の急騰を支えているのは、各国中央銀行による記録的な買い増しです。彼らは外貨準備として、これまでのようにドルを持つのではなく、史上最速のペースで金を買い集めています。これは単なる投資判断ではありません。地政学リスクの高まりや金融制裁への備えとして、特定の国に依存しない「真の安全資産」を確保する戦略なのです。
特に中国やインドなどの新興国は、ドル建て資産の比重を意図的に下げ、金の保有を積み増しています。これは、ドルを中心とした既存の金融秩序から距離を置き、新たな経済圏を構築しようとする動きにほかなりません。金価格の上昇は、基軸通貨としてのドルの地位が、音もなく揺らぎ始めている何よりの証拠です。
円安と金高騰 ― 二つの「不安」が重なる日本
日本で暮らす私たちにとって、円安の進行は金価格をさらに押し上げる要因となっています。国際市場でドル建ての金価格が上昇している上に、円の価値自体が下落しているため、国内の金価格は二重の意味で高値圏にあります。
この円安と金高騰には、実は共通する「不安」が潜んでいます。2025年中にアメリカFRBがさらなる利下げに踏み切る可能性が高まっており、これがドル安を招くとともに、利息のつかない金の魅力を高めています。つまり、円もドルも、通貨そのものへの不信感から逃れたいという投資家心理が、最終的に普遍的な価値を持つ金に向かっているのです。
金を「保険」として考える ― シンプルな始め方
金投資で大切なのは、短期的な値上がり益を狙うのではなく、長期的な資産の「保険」として位置づけることです。金価格は今後も上昇が見込まれていますが、変動も大きいことを忘れてはいけません。
まず押さえておきたいのは、実物資産と金融商品の違いです。
- 実物金(金地金・金貨):手元に置く安心感がありますが、購入時に消費税や手数料(プレミアム)がかかります。
- 金ETFや純金積立:少額から始められ、手数料や保管コストも抑えられます。初めての方は、流動性が高く手軽なこれらの商品から始めるのがおすすめです。
世界的な脱ドル化の流れが続く限り、金の価値は維持される可能性が高いでしょう。ただし、最大のリスクは「地政学的な緊張が急速に解消されること」です。危機が去れば、金は本来の価値水準に戻ります。つまり、「危機の終息」こそが金投資の最大の敵だと理解しておく必要があります。
いま世界の国々は何を恐れ、何を信じて動いているのか。その答えは、金価格の動きに如実に表れています。この大きな潮流を読み解くことが、不確実な時代に資産を守る第一歩となるはずです。