2025年ノーベル物理学賞が発表されてから数日で、量子コンピュータ関連銘柄の株価が一斉に急騰しました。IonQは77ドルまで上昇し、D-Waveは32ドルを突破。Quantum Computingに至っては、年初来で2,010%という驚異的な上昇を記録しています。
なぜこのタイミングで、これほどまでに投資家の関心が集まったのでしょうか。
ノーベル賞が証明した技術の信頼性
今回の物理学賞は、ジョン・クラーク、ミシェル・ドヴォレ、ジョン・マルティニスの3名に授与されました。彼らが1984年と1985年に証明した「電気回路における巨視的量子トンネリング現象」は、現代の量子コンピュータの基本単位である超伝導量子ビットの土台となる研究です。
ノーベル委員会は「100年の歴史を持つ量子力学が、絶えず新しい驚きをもたらしている」とコメントし、量子暗号、量子センサー、そして量子コンピュータといった次世代技術の可能性を強調しました。この発表が、量子コンピュータ産業全体への信頼を一気に押し上げた形です。
各社の株価急騰の背景
IonQは、イオントラップ方式による量子ビットの安定性で知られています。2025年に入ってからJ.P.モルガンの主導で10億ドル規模の資金調達に成功。ノーベル賞発表後の1週間で約11%上昇し、発表当日だけで4.31%急騰しました。AWSやMicrosoft Azureとの提携により、商用化が本格的に進んでいることも投資家の関心を集めています。
Rigettiは超伝導回路ベースで84量子ビットプロセッサを開発中。ノーベル賞発表後1週間で33%、1カ月では182%を超える上昇を見せました。9量子ビットシステム2台の購入契約(約570万ドル規模)が結ばれたことで、商業的な進展が確認されたことも追い風になっています。
D-Waveは1999年設立の、世界初の商用量子コンピュータ企業です。量子アニーリング方式で最適化問題に特化しており、日本とアジア太平洋市場での予約が83%急増。日本では量子コンピュータユーザー向けカンファレンスを開催し、エコシステムの拡大を図っています。ノーベル賞発表後1カ月で株価は112%上昇し、32.70ドルを記録しました。
Quantum Computingは2025年で最も急激な上昇を見せた銘柄です。9月と10月の2回にわたって総額12億5,000万ドルを調達し、現金保有額は15億5,000万ドルに。アリゾナのチップファウンドリを稼働させ、薄膜リチウムニオベートフォトニックチップの商業化を進めています。
投資判断で気をつけたいリスク
技術的な成熟度の不確実性は依然として大きな課題です。量子ビットのエラー率やデコヒーレンス問題の解決には、まだ時間が必要とされています。完全な耐障害性を持つ量子コンピュータの開発には、数年単位の期間が見込まれています。
Rigettiの直近四半期売上は前年比42%減の180万ドルにとどまり、4,000万ドルの純損失を記録。現金消費速度に対して商業化のペースが遅い点も懸念材料です。
バリュエーションの高さも見逃せません。Rigettiは売上高の1,100倍を超える時価総額を記録しており、技術力が実際の売上に転換されるかどうかは不透明な状況です。
一方で、金融機関でのポートフォリオ最適化、医療分野での創薬プロセスにおける分子シミュレーション、国防分野での量子暗号化など、量子コンピュータが変えうる産業は多岐にわたります。既存の暗号体系が量子コンピュータで解読される可能性に備えた「Q-Day」対策も、各国で急務となっています。
今回のノーベル物理学賞は、量子コンピュータ技術の学術的価値を公式に認めた歴史的な出来事でした。投資家たちは技術の潜在力と商用化の可能性に賭けていますが、高いボラティリティと不確実性も同時に抱えています。長期投資の観点から、技術の進捗度と財務の安定性を継続的にチェックすることが重要です。
Disclaimer: 本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。