10月初旬に発表されたニュースは、ちょっとした驚きを呼びました。OpenAIがAMDと6ギガワット規模のGPU導入契約を結んだというもので、契約にはAMD株の最大10%を取得できるワラントも含まれています。
この話、単なる大型契約としてだけ見るのはもったいないです。2025年10月6日に発表されたこの契約により、OpenAIは2026年後半から段階的にAMDのInstinct MI450シリーズGPUを導入し、最終的には6ギガワット規模まで拡大する計画です。
なぜ今、供給元を分散するのか
OpenAIがAMDに目を向けた背景には実務的な理由があります。GPU不足により新モデルの展開が制約され、運用コストも急上昇している状況で、単一サプライヤーへの依存リスクが明確になってきました。
データセンター市場でNVIDIAは圧倒的です。2025年時点でデータセンター向けGPU市場の90%以上のシェアを保持しています。これは独占に近い状態で、供給が需要に追いつかない場合、顧客側は代替策を探さざるを得ません。
契約発表後、AMDの株価は24%上昇し、時価総額は約9兆5300億円増加して3306億ドルに達しました。市場はこの提携を長期的な成長機会として評価したということです。
NVIDIA一強が揺らぐ三つの要因
まず、ソフトウェアの壁が少しずつ低くなっています。NVIDIAのCUDAは依然強固ですが、AMDはROCmというオープンソースプラットフォームを開発し、特に推論処理分野でコスト効率の良い選択肢として浸透し始めています。
次に、大手クラウド事業者が独自チップの開発を加速させています。GoogleのTPU、AmazonのTrainiumなど、内製化の動きは確実に進んでいます。完全にNVIDIAから離れるわけではありませんが、依存度を下げる戦略は明確です。
地政学的なリスクも無視できません。NVIDIAの生産は台湾のTSMCに大きく依存しており、米中対立や台湾情勢の不確実性が常に付きまとっています。
半導体サイクルの行方
2025年の半導体市場は好調です。AI需要とメモリ在庫の正常化が重なり、15%以上の成長が見込まれています。ただし、半導体市場には3~4年周期で好況と不況を繰り返す「シリコンサイクル」という景気循環があります。
大規模な設備投資が本格稼働する2027年前後に、供給過剰の懸念が浮上する可能性があります。とはいえ、HBMのような高付加価値メモリの需要継続や、2ナノメートルプロセスの立ち上がりなど、従来のサイクルとは異なる要素も多いです。
技術競争は止まらない
NVIDIAは2024~2025年に次世代アーキテクチャ「Blackwell」を投入し、2028年には「Feynman」と呼ばれる新世代GPUを計画しています。技術開発のペースを落とすつもりはないようです。
一方でAMDも手を打っています。MI300Xシリーズから始まり、MI350X、そして2026年のMI450へと製品ラインを拡充し、OpenAIとの協業を通じて製品最適化を進めています。
投資家にとっての意味
この動きは、AI半導体市場が一社独占から競争構造へ移行するサインかもしれません。OpenAIのような主要プレイヤーが複数の供給元を確保する戦略は、市場の健全性を高める一方で、NVIDIAの成長率に影響を与える可能性もあります。
OpenAIのサム・アルトマンCEOは「世界はもっと多くの計算能力を必要としている」とコメントし、NVIDIA製品の購入も継続すると明言しています。つまり、これは奪い合いではなく、市場全体のパイが拡大している状況での分散です。
半導体関連銘柄への投資を考えるなら、独占構造の変化と、それでも拡大し続ける市場規模の両面を見る必要があります。2027年前後のサイクル転換点も視野に入れつつ、技術革新のペースがそのタイミングをどう変えるかも注目点です。
結局のところ、AI時代の計算インフラは一社では賄いきれない規模に達しつつあるのかもしれません。