イーサリアムの価格が上がっても、なぜか手放しで喜べない。そう感じている方は、私だけではないはずです。
最近の価格反発は確かに嬉しいニュースですが、その裏側でイーサリアム経済圏の「元気度」を示す二つの重要な指標が、静かに危険信号を出しています。それがTVL(Total Value Locked、預かり資産総額)の減少と、ネットワーク手数料(ガス代)の低下です。これらは単なる数字の変動ではなく、投資家の心理を冷やし、成長の限界を予感させるサインかもしれません。
TVLの減少が示唆する市場の「冷え込み」
TVLは、イーサリアム基盤の分散型金融(DeFi)サービスにどれだけの資産が預けられているかを示すバロメーターです。このTVLが減っているという事実は、価格が変動してもエコシステム内部の活動が縮小していることを意味します。
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DeFiエコシステムの活動性が低下しています。新しいプロジェクトへの資産預け入れや、ユーザーの参加意欲が鈍っているサインです。
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競争するブロックチェーンへの資金移動が進んでいる可能性があります。ソラナ、ポルカドットといった他のレイヤー1チェーンや、イーサリアムの拡張ソリューションであるレイヤー2への資金分散が起きています。
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かつてイーサリアムが独占していたDeFi市場のシェアが、現在進行形で分断されている証拠とも言えます。
要するに、価格は上がっても、実際にネットワークを使った「経済活動」自体が停滞し、活力を失いつつあるのかもしれない、という見方ができます。
ガス代下落の裏に潜む「稼ぎ頭」の危機
イーサリアムのネットワーク手数料、通称ガス代が安くなっているのは、ユーザーにとっては大歓迎のはずです。しかし、ブロックチェーンの健全性や収益性という観点からは、この現象は単純に喜べません。
手数料が下がる理由は主に二つ考えられます。
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ネットワーク需要の減少 ネットワークを使いたい人が減ると、取引処理の競争が緩やかになり、自然と手数料は下がります。これはネットワークが「閑散としている」という、市場の停滞を示すシグナルです。
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レイヤー2への成功的な分散 アービトラムやオプティミズムのようなレイヤー2ソリューションが成功し、多くの取引がそちらで処理されるようになったため、イーサリアムのメインネットの利用量が減っています。
2025年11月時点では、イーサリアムメインネットの平均ガス代が一時的に1〜5ドル程度で推移するなど、以前の数十ドルに比べると大幅に低下しています。これはレイヤー2の恩恵とも言えますが、同時にレイヤー2ネットワークがイーサリアムメインネットの収益を吸収しているという、内部での競争激化という側面も無視できません。メインネット自体の経済的価値、つまり「稼ぎ頭」としての収益性に脅威を与えているのです。
投資家が抱く「成長の限界」への不安
価格が反発してもTVLとガス代が下がり続ける現象は、投資家に以下の不安を与えます。
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絶対的な成長の限界: イーサリアムがかつてのような爆発的な成長を続けるのは難しいのではないか、という認識が広がる可能性があります。
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差別化の必要性: ソラナなどの競合他社や、身内のレイヤー2ソリューションとの競争の中で、イーサリアムのメインネットがどう差別化された価値を提供し続けるのか、という課題が重くのしかかっています。
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資本流出の懸念: より高い利回りを求めて、DeFiに預けられていた機関や個人の資金が、新しいエコシステムへと流れ出しているかもしれないという懸念も拭えません。
現在のイーサリアムは、レイヤー2の成功という大きな一歩を踏み出したものの、メインネットの活動性低下という逆風にさらされています。価格の動きだけでなく、ネットワークの真の活動量を示すTVLや手数料の推移も合わせてチェックすることが、今後の投資判断において非常に重要です。この過渡期を乗り越えられるか、ぜひ一緒に見守っていきましょう。