量子コンピューターの進化が、いま私たちが使っているビットコインの暗号を破るかもしれない、という話を聞いたことはありますか。これはSFのような話ではなく、データ分析企業のコインメトリクス共同創業者ニック・カーター氏のような専門家が「ビットコインにとって最大の長期リスク」だと警告している現実的な課題です。
現在のビットコインの安全性は、楕円曲線暗号(ECC)という技術に支えられています。しかし、将来的に高性能な量子コンピューターが登場すると、「ショアのアルゴリズム」によって公開鍵から秘密鍵が瞬時に割り出されてしまう危険性があるのです。これは、デジタル資産の根幹を揺るがす重大な問題です。
資産が危険にさらされるのはいつか?
すべてのビットコインがすぐに危険になるわけではありません。リスクの度合いは、使われているウォレットのアドレス形式によって異なります。
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いますぐ注意が必要なアドレス: ビットコインの初期に使われた Pay-to-Public-Key(P2PK)形式など、すでに取引を行い、ブロックチェーン上に公開鍵が露出してしまっているアドレスです。一度公開された鍵は量子攻撃の標的になりやすく、現在約5,930億ドル相当のビットコインがこうした旧式のアドレスに保管されたままだという分析も出ています。サトシ・ナカモトの初期の資産もこのリスクに晒されていると見られています。
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比較的安全性が高いアドレス: 現在主流の Pay-to-Script-Hash(P2SH)やセグウィット(SegWit)形式のアドレスは、取引の署名を行うまで公開鍵が外部に晒されません。しかし、いざ取引をして公開鍵が露出した瞬間に、攻撃者がその短い時間を利用して秘密鍵を盗み出し、資金を横取りしようとする可能性があります。
専門家の間では、実用的な量子コンピューターがビットコインの暗号を破る能力を持つのは、2030年から2035年頃だと予測されています。ソラナの共同創業者などは「5年以内のアップグレードが必要」と警鐘を鳴らすなど、対応のタイムリミットは迫っています。
ビットコインを守るための具体的な戦略
ビットコインのコミュニティは、この量子脅威に対応するための技術的な準備をすでに進めています。最大の希望は、ビットコインがアップグレードによって進化できる性質を持っていることです。
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量子耐性暗号(PQC)への移行: 根本的な解決策は、現在のECC技術を、量子コンピューターでも解読されない新しい暗号技術「ポスト量子暗号(PQC)」に置き換えることです。米国国立標準技術研究所(NIST)はすでにPQCアルゴリズムの標準化を進めており、ビットコインもこれを取り入れる議論が行われています。
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アドレスの再利用を避ける: ニック・カーター氏も強く推奨していますが、最も即効性のある防御策は公開鍵をむやみに露出させないことです。セグウィットなどの最新のアドレス形式を使い、一度使用したアドレスは二度と使わないことで、攻撃の標的になるリスクを最小限に抑えられます。
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投資家として今できること: パニックになる必要はありませんが、備えは重要です。もし古い形式のウォレットにビットコインを保有しているなら、公開鍵が露出しない最新のネイティブセグウィットアドレスなどへ今のうちに資産を移しておくことをお勧めします。また、量子耐性を最初から組み込んでいるQRLやZcashなどの暗号資産の動きにも注目してみると良いかもしれません。
量子コンピューティングの登場は避けられない現実です。この技術の脅威は、ビットコインやその他のデジタル資産のセキュリティを根本から見直し、より強固なものへと進化させる大きな機会となるでしょう。