大手資産運用会社バンガードが、顧客に対してビットコイン現物ETFの取引を認めたというニュースは大きな話題になりました。しかし、この動きの裏側で、バンガードの幹部はビットコインを「デジタルなラプブーのようなもの」と表現し、その投資価値に対して依然として懐疑的な姿勢を崩していません。彼らの主張は、ビットコインには株式や不動産が持つような配当や家賃収入といった「インカム、複利、キャッシュフロー」がないから、長期投資の対象として不適格だ、という点に集約されます。この「キャッシュフロー至上主義」の考え方が、現代の金融市場の変化を捉え損ねている最大の要因だとわたしは見ています。
キャッシュフローがないビットコインに価値はあるのか
伝統的な金融の世界では、資産は「生産性」を持つことが絶対条件でした。お金を生み出さないものは、ただの投機対象、あるいは流行りのコレクション品に過ぎないという考え方です。しかし、この考え方を徹底すると、ポートフォリオにおける「ある役割」を持つ重要な資産が無視されてしまいます。例えば、金(ゴールド)は配当を生みませんが、数千年にわたって通貨の価値が下がる時のヘッジとして機能してきました。
わたしは、ビットコインを考える上で、この「価値の保存」という側面に注目すべきだと思います。特にインフレが進行し、安全な資産の利回りが物価上昇に追いつかない現代において、キャッシュフローがないことは欠点ではなく、むしろカウンターパーティーリスク(取引相手の信用リスク)から自由であるという特性になります。お金を生まなくても、お金の購買力を守る役割は十分にあるのです。
ラプブーとビットコインの決定的な違い
バンガードの幹部がビットコインを流行のぬいぐるみと比較したのは、その価値が「流行」や「熱狂」に左右される一時的なものだと見ているからです。しかし、ラプブーのようなコレクションアイテムとビットコインの間には、供給の仕組みにおいて決定的な違いがあります。
-
コレクション品の供給: メーカーや企業が人気に応じて供給量を増やせるため、一時的な希少性は薄れていきます。需要が増えれば増産されるため、長期的には価格が下落するのが一般的なパターンです。
-
ビットコインの供給: 価格がいくらになっても、プロトコルによって発行上限が2,100万枚と固定されています。中央管理者が存在しないため、価格変動に合わせて発行量を増やすことが数学的に不可能です。
この絶対的な希少性こそが、ビットコインを単なる流行品から切り離す最大の要素です。価格が発見されるまでの間、ボラティリティが高いのは当然ですが、それは一時的な熱狂ではなく、新しい金融技術が市場に根付く過程で生じる現象だと考えられます。
企業の行動と発言の矛盾点を見る
一方で、バンガードの行動は、その発言と矛盾しています。競合であるブラックロックやフィデリティが数十億ドル規模の資金を現物ETFに集めている状況を受け、バンガードは顧客の離脱を防ぐため、他社のビットコインETFの取引を許可しました。これは、顧客の需要と市場の現実を無視できなくなったという実務的な判断です。
自社では商品を出さないと公言しつつ、他社の商品を取引させるというのは、投資哲学を守りながらもビジネスチャンスを逃さないための苦肉の策と言えるでしょう。また、ブラックロックでETF事業を統括していた人物がバンガードのCEOに就任したという背景も、同社の戦略が水面下で変化していることを示唆しています。
投資判断は「特定のシナリオ」に注目する
バンガードの幹部は、高インフレや政治的な不安定さといった特定のシナリオでは、ビットコインが非投機的な価値を持つ可能性を認めました。この発言は重要です。なぜなら、その「特定のシナリオ」は、今まさしく世界経済が直面している状況だからです。
現在の財政赤字の拡大や地政学的な緊張を考えると、政府や中央銀行のコントロールを受けない「中立的な資産」を求める需要は、もはや一時的なものではありません。投機的なレッテルを貼るのではなく、この資産がどのような経済的な役割を果たせるのかに焦点を当てて分析することが、現代の投資家には求められます。FINRA財団のデータによると、米国投資家は依然として暗号資産を非常に危険だと見ていますが、この認識は2021年以降、大きく変わっていません。
投資の視点: キャッシュフローの有無だけでなく、供給の絶対的な希少性とネットワークの耐久性に注目しましょう。