イーサリアムが目指す分散化という哲学が、今、根底から揺らいでいます。その最大の要因は、ステーキング市場における巨大プレーヤー、特にコインベースの支配力強化です。これは単純な市場シェア争いではなく、イーサリアムのコアバリューを蝕む構造的な脅威として捉えるべきでしょう。
現在、イーサリアムの総発行量の29%以上がステーキングされ、過去最高水準を記録しています。この膨大な量の大部分を、リキッドステーキングプロトコルと、コインベースのような中央集権型取引所が占めている現実があります。
ステーキング独占が招く集中化リスク
コインベースは、単一のノード運営者としては最大級の規模を誇ります。市場シェアはリド(Lido)が約25%超で首位を走り、バイナンス、そしてコインベースがそれに続く構造です。機関投資家の参入が増えるにつれて、規制対象であるコインベースの影響力は増す一方です。
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構造的な問題:個人が32 ETHを預けるソロステーキングは敷居が高く、利便性と流動性を優先した結果、多くのユーザーがコインベースのような中央集権型サービスに委任しています。この「合理的な選択」の積み重ねが、皮肉にもネットワーク合意形成における少数の支配力を強める結果となっています。
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脱中央化の合意限界点:イーサリアムのPoS(プルーフ・オブ・ステーク)では、ステーキング量の3分の2以上が結託すると、ブロックの最終性を損なう悪意ある攻撃が可能になります。上位のリドと主要な中央集権型取引所のシェア合計が、この危険な臨界点に近づいている状況は、ネットワークの整合性に対する深刻な警告です。
規制と企業利益が生むガバナンスの衝突
この集中化の危険性は、技術的な側面に留まりません。
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検閲抵抗性の喪失:もし米国の証券取引委員会(SEC)などの規制当局からの圧力が強まった場合、規制下に置かれたコインベースは、特定の取引やアドレスに対する検閲要求を受け入れる可能性があります。これは、イーサリアムが掲げる最も重要な価値の一つである「検閲抵抗性」を根本から崩壊させ、分散型金融(DeFi)エコシステム全体の信頼を失墜させます。
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株主利益とネットワーク価値の対立:ナスダック上場企業であるコインベースの最大の目標は、株主価値の最大化です。イーサリアムのアップグレードやガバナンス投票がコインベースのステーキング収益に不利に働く場合、企業の利益とイーサリアムネットワークの長期的な分散化という価値観の間で、激しい利害衝突が生じるのは避けられません。
さらに、コインベースは独自にレイヤー2ネットワークであるベース(Base)を運営しています。ステーキング支配力とレイヤー2のエコシステムへの関与が合わさることで、プロトコルの変更に対し、自社に有利な方向へガバナンスを誘導する動機が生まれてしまうのです。
個人投資家が取るべき賢明な一手
この中央集権化の波から資産と価値を守るには、個人投資家自身の能動的な選択が鍵となります。
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分散化の視点を持つ:ソロステーキングは理想ですが、現実的な壁が高いです。そのため、リドのようなリキッドステーキングプロトコルを選ぶ際にも、単なる利回りではなく、独立した多数のノード運営者によって分散された構造を持つサービスを選ぶことが、リスクを軽減します。
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哲学を守る投資:収益率の高さだけを追い求めるのではなく、そのプラットフォームがイーサリアムの「分散化」という核心的哲学をどれだけ守っているかを、投資判断の重要な基準に加えるべきです。
イーサリアムの未来の価値は、その利便性ではなく、分散化の精神を守り抜けるかにかかっています。巨大な中央集権的プレーヤーによる支配が深まる今こそ、個人投資家がリスクを正しく認識し、分散化されたステーキングの代替手段を積極的に探求するときです。