数百ドル規模の反発だったが、方向が逆だったことが重要だった。日本銀行が政策金利を0.75%から1.0%へ引き上げると発表した直後、ビットコインはアジア時間早朝の下落を帳消しにして反発した。利上げはリスク資産にとって逆風のはずだ。金利が上がれば安全資産に資金が戻り、値動きの激しいビットコインは売られる。教科書にはそう書いてある。でも今回、そうはならなかった。
数字ではなく、日銀が同時に約束したこと
日銀政策金利の推移:31年ぶりの水準へ
Source: 日本銀行・記事本文
利上げの発表だけを見れば「引き締め」だ。しかし日銀は同時に、国債買い入れの減額ペースを一時停止し、長期国債の月間購入規模を一定水準で維持すると示したとされる。短期金利は上げながら、長期金利は上がりすぎないよう抑える、言葉と実態の間に明確なずれがある。
市場が「利上げ」よりも「国債購入の継続」に反応した、というのが素直な読み方だと思う。長期金利を抑えるために中央銀行が国債を買い続けるということは、市場への資金供給が止まらないということでもある。日銀は「インフレと戦っている」という姿勢を見せながら、国債市場が崩れないようにお金を流し続けている。経済ニュースを読むとき、私はまずそのずれを探す。今回はそのずれが、ビットコインの方向を決めた。
円高と暗号資産、なぜ両方が同時に強含んだか
日銀の「矛盾」:引き締めと緩和の同時発信
Source: 記事本文・日本銀行発表
日本円で生活している側からすると、この構図は少し不思議な感覚がある。日銀が引き締めに動いているなら、円は強くなる方向のはずで、利上げ観測が高まるたびに円は対ドルで反発してきた。円高になれば、ドル建てのビットコインを日本円に換算したときの価格は目減りする。bitFlyerやCoincheckで取引している人にとっては、直接関係する話だ。
それでも今回起きたのは、円も一定の強含みを見せながら、ビットコイン自体も上昇するという展開だった。どちらかが損をする構図ではなく、「不確実性を嫌う資金が逃げ場を探している」という読み方が成り立つ。日本国債の長期金利が不安定な時期に、円でもドルでもない何かへ向かうお金が一定数存在する、今回の動きは、その仮説を補強するものだったかもしれない。
1995年という年に何が起きていたか
利上げ局面でのビットコインの反応比較
Source: 記事本文・市場データ
31年ぶり、つまり1995年以来の水準だ。阪神淡路大震災の年、円が一時79円台まで進んだ年、Windows 95が日本に上陸した年。あの頃の金利水準に戻ってきたという事実は、単なる数字の話ではなく、日本経済がいかに長い間「ゼロ金利という異常」の中にいたかを示している。
住宅ローンの変動金利への影響はこれから出てくる。GMO CoinのスプレッドやbitFlyerの取引手数料には直接関係しないが、変動金利で家を買っている人の月々の返済額は、今後の利上げ幅によって変わってくる。PayPayやLINE Payで決済できる金額は変わらなくても、そのお金そのものの値段が動き始めているということだ。セブン-イレブンのコーヒーが同じ値段のままでも、それを買うために働いた時間の価値は変化しつつある。
「利上げで上がった」という記憶をどう使うか
私はこれまでに「こういう状況ならビットコインは下がるはず」と思って外れたことが何度もある。2022年のFRB利上げ局面では、予想通りビットコインは大きく売られた。同じ「利上げ」でも、中央銀行が同時に何を約束しているかによって、市場の解釈はまるで変わる。
今回の日銀の動きは、金利を上げながらも「国債市場は守る」というメッセージを同時に発したものだった。市場はその矛盾を「まだ緩和的だ」と読んだ。ビットコインはその解釈の一つの表れとして動いた、というのが、今のところの私の理解だ。
ただ、この構図がいつまで続くかは分からない。インフレが想定以上に加速して日銀が長期金利の上昇を容認せざるを得なくなったとき、話は変わる。国債購入規模が維持できなくなる状況を、今から頭の端に置いておく必要がある。ファミリーマートのATMで円を引き出すたびに、その円の調達コストが少しずつ変わっていることを思い出してほしい。