
11月の同じ週に円が対ドルで上昇し、ビットコインは下落しました。この二つは本当につながっているのでしょうか。それとも、ただ同じ週に起きただけなのでしょうか。
円高とビットコイン安は本当に連動しているのか
ビットコイン安の因果の流れ
1. 米国の金利政策とリスク選好の変化
海外市場が先行して動く
2. ドル建てビットコインが弱含む
グローバルなリスク資産売りの流れ
3. 日銀の利上げ観測が重なる
同時期に円高が進行
4. 国内価格はドル安に円高分が上乗せ
bitFlyer・Coincheckの円建て価格が下落
5. 「円高ビットコイン安」という見出しが拡散
実際は別々の現象が同じ週に重なった結果
Source: 記事内容に基づく構成図
同じ週に起きた二つの現象を見ると、そこに因果関係があると感じてしまいがちです。ただ、確認すべきなのは、円高とビットコイン安が同じ日に起きたという事実だけで、因果関係があると言えるわけではないという点です。長年、為替と暗号資産の動きを見てきましたが、同じ方向に動く日が続いたからといって構造的な関係だと思い込むと、後で痛い目を見ることが多いものです。
実際、ビットコインはドル建てで見ても同時期に弱含んでいました。円が強くなったから下がったのではなく、ドル市場全体でリスク資産が売られる流れの中に、たまたま円高のタイミングが重なったと見るほうが自然です。bitFlyerやCoincheckの国内価格を見ても、下落の大部分はドル建て価格の下落をそのまま反映したもので、円高による上乗せ分はそこまで大きくありません。
多くの人が円高こそが主犯だと感じてしまうのはなぜでしょうか。そのためには、円高自体の原因である日銀の利上げ観測がどれほどの規模なのかを見てみる必要があります。
日銀の利上げ規模は市場を揺らすほどなのか
日銀の政策金利は国際的に見て低水準
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日銀の利上げ幅(想定) 0.25~0.5% 刻み幅の一例 |
他の主要国の政策金利水準 依然高め 日本より大幅に上 |
市場への影響度 規模不釣合い 観測自体が引き金に |
利上げの実際の規模よりも「利上げが近い」という観測自体が、投機的な持ち合いを崩すきっかけになったと考えられる。
Source: 記事内容(日銀政策金利の記述)に基づくイメージ図
日銀が政策金利を動かすとなれば、普通の生活者にとっても大きな話に聞こえます。住宅ローンを組んでいる人は変動金利の見直しを心配しますし、預金が増えるかもしれないと期待する人もいます。ここで、数字を確認してみます。
日銀の政策金利は長年ゼロ近辺で推移してきました。たとえ0.25%や0.5%刻みで上がったとしても、他の主要国の政策金利と比べればまだかなり低い水準です。この程度の利上げで、グローバルなリスク資産市場全体が揺らぐというのは、規模として見合っているのか疑問が残ります。利上げそのものよりも、利上げが近いという観測自体が、投機的な持ち合いを崩すきっかけになっている印象を受けます。
気になるのは、誰がこの利上げ観測の拡大で得をするのかという点です。円を売ってドルや他の資産に乗っていた投資家にとって、円高は持ち合いの巻き戻しを強いる圧力になります。逆に、長く円の弱さに苦しんできた輸入企業や、海外旅行や留学で円建ての支出が重かった人たちにとっては、たとえ一時的でも歓迎すべき動きです。立場によって、同じニュースの受け止め方がまったく違います。
この利上げ観測が国内の暗号資産市場にどこまで及んでいるのか、次に確認してみます。
ビットコイン下落の震源地は日本なのか
立場によって異なる受け止め方
| 立場 | 円高の影響 | 今回のニュースの重み |
|---|---|---|
| 輸入企業・留学・旅行層 | 歓迎すべき動き | 円建て支出の軽減 |
| 円売りドル資産保有の投資家 | 持ち合いの巻き戻し圧力 | ポートフォリオ再考が必要 |
| ATMで少額購入する個人層 | ほぼ影響なし | 物価上昇の方が重要 |
| 暗号資産の長期保有者 | 短期的な価格表示の低下のみ | 金融政策の長期的方向性が重要 |
Source: 記事内容(生活者・投資家の立場別の記述)に基づく整理
ここで、見立てが外れた話をひとつ。数年前、国内の暗号資産市場は国内要因でそこまで大きく動かないだろうと考えていました。ところが実際には、日銀の政策スタンスが変わるという観測だけで、国内の個人投資家の取引量が一時的に細る場面を何度か見てきました。思ったより、心理的な影響は大きいものです。
ただ、今回のビットコイン下落について冷静に見ると、やはり主な震源地は海外にあります。米国の金利政策や、グローバルなリスク選好の変化が先に動いて、そこに日本の利上げ観測が重なったというのが実態に近いでしょう。bitFlyerやCoincheckの出来高データを見ても、パニック的な売りというよりは、様子見による取引の縮小という方が当てはまります。
セブンイレブンやファミリーマートのATMを使う層、比較的小口で現金から暗号資産に入る人たちの動きを見ても、極端な解約の動きは見られていません。今回の下落は国内の個人層全体を巻き込んだパニックではなく、海外の大口資金の動きが先行していたと見てよさそうです。
海外の動きが先行しているとわかった上で、残る論点は円高そのものが暗号資産にとってどれほどのリスクなのかという点です。
円高は暗号資産にとって本当にリスクなのか
円が強くなると、ドル建て資産の円換算額は下がります。単純な算数です。1ビットコインが同じドル価格でも、円が強くなれば日本円で見た時の価格は下がります。ここだけ見ると、円高はビットコインにとって明確な逆風だと感じられます。
ただ、円高が本当に暗号資産への需要そのものを減らすのかは、別に考える必要があります。歴史的に見ると、円が強くなった時期は、むしろ国内投資家にとって海外資産を安く買えるタイミングでもありました。PayPayやLINE Payを使って少額から暗号資産を買う層にとって、価格が一時的に下がることは、必ずしも悪いニュースではありません。安く買えるチャンスと捉える人も一定数います。
円高は価格表示上のマイナスにはなりますが、需要そのものを消すとは限りません。この違いを分けて考えないと、円高イコール暗号資産崩壊という短絡的な結論に飛びついてしまいます。この価格表示と需要の違いは、実際に生活者の行動にどう結びつくのでしょうか。
この動きは生活者に何を意味するのか
日々の生活の中で、この利上げ観測と円高、そしてビットコイン安のニュースをどう受け止めればいいのか。これが一番実用的な問いです。
変動金利でローンを組んでいる人は、利上げが実際に行われれば返済額が増える可能性があります。これは数字として確認しておくべき話です。一方で、暗号資産を少額保有している人にとって、今回の下落は資産の大幅な目減りというより、ドル建て市場全体の調整に円高が少し味付けをした程度と見るのが実態に近いでしょう。
セブンイレブンのATMで数千円単位で暗号資産を買っている人と、まとまった資金をbitFlyerやCoincheckで運用している人とでは、今回のニュースの重みがまったく違います。前者にとっては価格の上下よりも、日常の買い物でどれだけ物価が上がっているかのほうがよほど重い話です。後者にとっては、ポートフォリオ全体のリバランスを考えるきっかけになるかもしれません。立場が違えば、同じニュースから受け取るべき教訓も変わってきます。
このニュースの本当の主役は誰なのか
日銀の利上げ観測、円高、ビットコイン安。この三つを並べて語ると、まるで一つの原因から一つの結果が生まれたように見えます。実際には、それぞれ別の力学で動いていて、たまたま同じ週に注目を集めただけという側面が強いです。
こうした複合的なニュースが出た時ほど、誰が得をして誰が損をするのかを分けて考える必要があります。輸入企業は円高を歓迎し、投機的にドル建て資産を積んでいた層は巻き戻しに苦しみます。暗号資産を長期で持つ人にとっては、短期の価格変動よりも、日銀の金融政策が今後どこまで正常化に向かうのかという、もっと長い時間軸の話のほうが重要になってきます。
円高とビットコイン安は、同じ週に起きた別々の出来事であり、一方が他方を引き起こしたわけではありません。来週、再来週とニュースが流れるたびに、円高ビットコイン安という見出しがまた出てくるかもしれません。その時は、今回と同じように震源地がどこにあるのかを分けて確認すればよいのです。