NVIDIAが市場の8割を握る状況が、少しずつ変わり始めています。
2025年10月6日、AMDとOpenAIが6ギガワット規模のGPU契約を発表しました。注目すべきは契約の中身です。AMDはOpenAIに対して、最大1億6000万株のワラント(新株予約権)を提供しました。これは発行済み株式の約10%に相当します。
つまりOpenAIは、AMDのチップを買うだけでなく、AMDの株主にもなるということです。発表当日、AMD株は24%急騰しました。
独占から過点へ、規制リスクが現実に
NVIDIAは2024年9月、米国司法省から反独占法に関する調査を受けました。さらに同年12月には中国からも独占禁止法違反の疑いで調査を受けています。市場支配力が強すぎた結果です。
OpenAI CEO サム・アルトマンは9月にNVIDIAと最大1000億ドル規模の契約を結びましたが、そのわずか2週間後にAMDとも大型契約を締結しました。彼は「今後数か月でさらに多くの契約を発表する」と述べています。
実際、Broadcomとも10ギガワット規模の契約が報じられています。
循環する資金構造の危うさ
問題は、この契約の構造です。
NVIDIAはOpenAIに投資し、OpenAIはそのお金でNVIDIAのチップを買います。AMDはOpenAIに株式を渡し、OpenAIはAMDのチップを買います。全員が互いに投資し、互いから購入する仕組みです。
ウォール街のアナリストはこれを「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」と呼び、懸念を示しています。一つの輪が崩れれば、連鎖的に全体が揺らぐ構造だからです。
OpenAIの2025年上半期の売上は45億ドルでしたが、1兆ドル規模の契約を実行するには追加の資金調達が不可欠です。評価額は5000億ドルに達していますが、実際のキャッシュフローとのギャップは大きいままです。
価格を支配できるプレイヤーたち
石油市場のOPECが生産量で価格をコントロールするように、AI chipip市場も似た方向に進んでいます。
AMDのデータセンターCPU市場シェアは既に40%です。GPU市場でも2027年までに25〜30%を獲得する見通しです。NVIDIAとAMDの2社が主要供給者になれば、供給量と価格を調整できる立場に立てます。
ソフトウェア面でも変化が起きています。NVIDIAのCUDAが開発者を囲い込む中、AMDはオープンソースのROCmで対抗しています。2025年6月に公開されたROCm 7は、MetaやMicrosoftといった大手企業が積極採用を始めました。
AMD CEO リサ・スーは「開かれたAIエコシステム」を強調していますが、結局のところNVIDIAとAMDの二強構造が固まれば、新しい寡占が生まれるだけです。
規制の逆説
NVIDIAを牽制するためにAMDを育てる。これは1990年代、Intelを牽制するためにAMDを生かしておいた構図と同じです。
AI chip市場の規模は、2025年時点で350億ドル。2030年までに2000億ドルを超えると予測されています。この巨大市場をNVIDIAとAMDが分け合う構造が固定化すれば、新しい企業の参入余地は限られます。
転換点に立つ市場
AI インフラ市場は今、歴史的な分岐点にあります。独占から寡占へ、そしてカルテルへの道筋が見え始めています。
1兆ドル規模の契約が次々と発表される今、誰がこのゲームの勝者になるかはまだわかりません。しかし一つだけ確実なことがあります。AI chip市場が、少数の供給者が価格と供給量を左右する市場へと変わりつつあるということです。
石油のように。