2024年1月、米国で現物ビットコインETFが承認されて以降、ブラックロックやフィデリティといった大手運用会社が相次いでビットコイン市場に参入しています。ブラックロックのiBITは初年度だけで約500億ドルの資金を集め、ETF史上最大級のローンチとなりました。
これだけ注目される背景には「デジタルゴールド」という物語があります。金のように希少で、インフレに強く、価値を保存できる──そんなイメージが機関投資家の参入を正当化してきました。でも、本当にそうなのか。変動性は金の10倍以上あるのに、なぜデジタルゴールドと呼ばれるのか。この記事では、この物語の力と限界を探ります。
希少性が作り出す信頼感
ビットコインは2100万枚という発行上限が設定されています。4年ごとの半減期で新規供給が半分に減り、2024年4月の半減期後は年間約16万BTCしか生まれません。金の年間供給増加率を下回る水準です。
この「プログラムされた希少性」が、金の物理的な埋蔵量の限界と重なって見えます。中央銀行が好きなだけ通貨を発行できる時代に、供給量が決まっているという事実だけで、一部の投資家には魅力的に映るのです。
機関投資家が実際に動いた理由
マイクロストラテジー(現ストラテジー)は2020年からビットコインを買い続け、2025年4月時点で約55万BTCを保有しています。単なる投機ではなく、企業財務の一部として10年単位で保有する戦略です。
ETFの登場で流れが加速しました。2024年11月時点でビットコインETFの運用資産は約1460億ドル。金ETFの2900億ドルには及びませんが、わずか10ヵ月でこの規模に達したのは異例です。証券口座で買える手軽さが、従来は参入をためらっていた年金基金や保険会社を動かしました。
金とは全く違う値動き
ただし、実態は金とはかけ離れています。ビットコインの年間ボラティリティは約50%(2025年)。金は10~15%程度なので、変動幅が3~5倍違います。
2022年にはインフレが加速する中、ビットコインは約75%下落しました。金は上昇しています。2025年4月にトランプ大統領が関税政策を発表した際も、ビットコインは8万ドル台まで急落。一方、金は3000ドルを突破し史上最高値を更新しました。
危機のときに上がるのが安全資産の条件なら、ビットコインはまだそこに到達していません。むしろナスダックのようなテック株に近い動きをしています。
物語が隠してしまうもの
デジタルゴールドという枠組みには副作用もあります。ビットコインの本来の強み──国境を越えた瞬時の送金、プログラム可能な通貨、レイヤー2での決済革新──が見えにくくなるのです。
エルサルバドルが法定通貨として採用したのは金の代替ではなく、送金コストの削減や金融包摂が目的でした。DeFiでビットコインを担保にステーブルコインを借りる使い方も、金の延長線では説明できません。
デジタルゴールドという物語は入口としては便利ですが、ビットコインの可能性を一部しか語っていないのです。
2025年の現実的な立ち位置
結局、金とビットコインは別物として扱うのが妥当です。金は数千年の実績がある安全資産。ビットコインは15年の歴史しかない革新的な資産です。
ブルームバーグのレポートによれば、両者は相関性が低いため、組み合わせることでポートフォリオの分散効果が得られます。どちらかを選ぶのではなく、リスク許容度に応じて配分を調整する──それが2025年時点での機関投資家の考え方です。
年齢や投資目標によって配分は変わります。保守的な投資家は金の比重を高く、成長を狙う投資家はビットコインを増やします。デジタルゴールドという表現は便利ですが、それ以上でも以下でもないということです。
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