JPMorganが示したビットコイン165,000ドル、この計算は本当に正しいのか?



JPMorganがビットコインの公正価値を165,000ドルと算出したことが話題になっています。2025年10月現在、ビットコインは約120,000ドル前後で推移しており、単純計算で約40%の上昇余地があるという結論です。世界最大級の銀行による評価モデルですが、実は見落としている点が3つあります。


投資家心理を見誤っている


JPMorganのモデルは金とビットコインのボラティリティ比率に基づいて計算されています。2025年10月時点で、ビットコインのボラティリティは30%程度まで低下し、金との比率が2.0を下回りました。これだけ見ると「ビットコインが安定してきた」という評価になります。


しかし、実際の市場はもっと複雑です。2025年10月にビットコインが史上最高値125,689ドルを記録したのは、米国政府機関閉鎖による不安心理が背景にありました。投資家たちが法定通貨への不信感を強め、ビットコインに資金を移したのです。こうした心理的な動きは、数式では捉えきれません。


日本の投資家にとっても状況は似ています。円安懸念からビットコインを購入する動きが見られますが、為替変動や金融政策の転換で投資家心理は一変します。メタプラネットのような日本企業がビットコインを戦略的に保有する一方で、個人投資家は相変わらず短期的な値動きに振り回されがちです。


JPMorganのモデルは、機関投資家と個人投資家の行動パターンの違いを十分に織り込んでいません。日本では野村ホールディングスの調査によると、機関投資家の54%が今後3年以内に暗号資産投資を計画しているとされます。しかし、個人投資家の保有率は約13%にとどまり、両者の温度差は大きいのが現実です。


マクロ経済への対応力が弱い


ビットコインはインフレヘッジとして注目されていますが、実際の値動きは複雑です。2020年から2021年のパンデミック期には大規模な金融緩和を背景に価格が急騰しました。ところが2022年には、インフレが進行する中でビットコインは66%も下落しています。


この時期、日本銀行も金融政策の転換を示唆し始め、世界的な金利上昇局面に入りました。2024年7月に日銀が金利を0.25%引き上げた際には、円キャリートレードの巻き戻しでビットコインも連鎖的に下落しました。日本の投資家にとって、こうした国内外の金融政策の変化は無視できません。


JPMorganのモデルは金との比較に重点を置いていますが、中央銀行の政策変更やグローバルな資金の流れといった要素を十分に反映していません。日本では2025年現在も現物ビットコインETFが未承認で、投資手段が限られています。こうした制度面の違いも、価格形成に影響を与える要因です。


市場構造の変化を過小評価している


2024年1月に米国でビットコイン現物ETFが承認されてから、市場の様相が一変しました。ブラックロックのiBitは運用資産が1,000億ドルに迫り、2025年だけで264億ドルの資金が流入しています。機関投資家の本格参入により、市場の流動性が大きく改善しました。


日本でも変化が起きています。メタプラネットは2025年6月に保有量が10,000BTCを超え、「アジア版マイクロストラテジー」として注目されています。東証スタンダード上場の同社は、ビットコイン保有を財務戦略の中心に据え、株価が年初比で5倍近くに上昇しました。


しかし、JPMorganのモデルはこうした構造変化を十分に評価していません。日本国内の上場企業では2025年4月時点で40社以上が暗号資産を保有していると推定されますが、米国と比べればまだ黎明期です。加えて、日本では直接投資した場合の税率が最大55%と高く、株式の20.315%と大きな開きがあります。


代替モデルの可能性


JPMorganの金比較モデルに対し、オンチェーンデータを活用したモデルも登場しています。ブロックチェーン上の実際の取引データから投資家行動を読み取る手法です。活性アドレス数の増加や大口保有者の動きなど、リアルタイムの指標が価格予測の精度を高めています。


日本の投資家にとっては、こうした多角的な視点が重要です。一つのモデルに依存せず、複数の分析手法を組み合わせることで、より現実的な判断ができます。


今後の展望


JPMorganの165,000ドルという目標は、達成される可能性もあります。ただし、その過程は予想以上に複雑で変動が大きいでしょう。投資家心理の急変、金融政策の転換、市場構造の変化といった要素が絡み合い、単純な数式では説明できない動きが続くはずです。


日本の投資家としては、こうした不確実性を前提に、分散投資とリスク管理を徹底することが求められます。ビットコインの長期的な可能性を信じつつも、短期的な価格変動には冷静に対処する姿勢が大切です。


Disclaimer: 本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。


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