ステーブルコイン市場が3,000億ドルを突破。この数字が示す新しい金融の形


ステーブルコインの時価総額が2025年10月時点で約2,500億ドルを超えています。この数字を見て、多くの人が「また暗号資産の話か」と思うかもしれません。でも、実際に起きているのは、もう少し地に足のついた変化です。


2024年、ステーブルコインで動いた資金は27.6兆ドル。これはビザとマスターカードの決済額を合わせたよりも多い額です。もちろん、この中には取引所間の移動や投機的な取引も含まれているので、実際の決済に使われたのは全体の1%程度という分析もあります。それでも、暗号資産取引の84%をステーブルコインが占めているという事実は、何かが変わり始めている証拠です。


日本でも動き始めた実用化の波


日本では2023年6月に改正資金決済法が施行され、ステーブルコインの法的な位置づけが明確になりました。これは世界でも先駆けての動きです。


2025年3月には、SBI VCトレードが国内初の電子決済手段等取引業者として登録され、米ドル連動型ステーブルコインUSDCの取引サービスを開始しています。


さらに注目すべきは、フィンテック企業のJPYCです。2025年8月に資金移動業者として登録され、同年秋には日本円と1対1で連動する円建てステーブルコインの発行を開始する予定です。これが実現すれば、国内初の円建てステーブルコインとなります。


JPYCは銀行預金や日本国債を裏付け資産とし、2025年10月からはクレジットカード返済にも利用できるようになる見込みです。ブロックチェーン技術を使った決済が、徐々に日常に近づいています。


テザーの存在感と、そこに潜むリスク


ステーブルコイン市場を語る上で避けて通れないのが、テザー(USDT)の存在です。全体の約60%を占め、時価総額は1,700億ドルを超えています。2位のUSDCが約25%のシェアなので、この偏りは明らかです。


テザーは2025年2分期時点で1,270億ドル相当の米国債を保有しています。これは一部の国が保有する米国債を上回る規模です。民間のステーブルコイン発行体が、すでに国家レベルの債券投資家になっているわけです。


ただし、テザーは準備金の約12%を非現金性資産で保有しているとされ、大規模な償還が発生した場合、1ドルペッグが維持できるかという懸念が根強く残っています。


DeFiの成長を支える基盤通貨


2025年第3四半期、分散型金融(DeFi)全体のTVL(預けられた資産の総価値)は237億ドルという過去最高を記録しました。2022年のテラ・ルナ崩壊後、42億ドルまで落ち込んだことを考えると、大きな回復です。


この成長を支えているのがステーブルコインです。Aaveのような貸付プラットフォームやUniswapのような分散型取引所で、安定した価値を持つ資産として流動性を提供し、担保としても機能しています。


イーサリアムが全DeFi資産の約49%を占め、TVLは119億ドル。ソラナが2位で138億ドル、BNBチェーンが3位という構図になっています。日本発のプロトコルも徐々に台頭しつつあります。


規制環境の大転換


2025年7月、米国でGENIUS法が成立しました。トランプ大統領が署名したこの法案は、ステーブルコイン発行者に100%準備金保有、月次開示、資金洗浄防止体系の構築を義務付けています。


欧州では2024年からMiCA(暗号資産市場規制)が施行されており、英国、香港、シンガポールもそれぞれの規制枠組みを整備しました。グローバルな金融当局が、ステーブルコインを実験的な資産ではなく、実質的な決済インフラとして認識し始めています。


日本でも法整備は着実に進んでおり、発行者認可要件や100%準備資産義務など、具体的な法案が議論されています。


中央銀行との緊張関係


ドル建てステーブルコインが世界中に広がることで、米国の通貨政策の影響力は拡大する一方、他国は通貨主権の弱体化という課題に直面しています。


ユーロ建てステーブルコインの時価総額は2億5,700万ドルに過ぎず、ドル中心の構造が圧倒的です。欧州中央銀行のラガルド総裁は、この状況が欧州を米国に従属させるリスクがあると警告しています。


各国中央銀行は対抗策として中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発を加速しています。中国はデジタル人民元を本格展開中で、日本も検討を続けています。


残された課題


市場規模が拡大する一方で、2025年上半期だけで25億ドルがハッキングや詐欺で失われています。伝統的な金融には預金保険がありますが、暗号資産にはそうした安全装置がありません。


国際決済銀行(BIS)は2025年の年次報告で、ステーブルコインが健全な通貨としての要件を満たしていないと評価しています。特に、準備資産との連動が危機時に広範な影響を及ぼす可能性を指摘しています。


それでも市場は成長を続けると見られています。スタンダードチャータード銀行は、2028年までにステーブルコインの時価総額が2兆ドルに達すると予測しています。


これから注目すべきこと


各国のCBDC導入とステーブルコインとの競合・協調関係、規制強化が市場構造に与える影響、そして実生活での決済利用の拡大。これらが2025年下半期から2026年にかけての重要なテーマになります。


日本では、円建てステーブルコインがどこまで普及するか、海外からの旅行者への決済手段として定着するか、企業間決済でどれだけ活用されるかが注目されます。


ステーブルコイン3,000億ドル突破は、デジタル金融が投機の領域から実用の領域へ移行しつつあることの表れです。完璧なシステムではありませんが、既存の金融インフラを補完する新しい選択肢として、少しずつ日常に浸透していきそうです。


Disclaimer: 本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。


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