ビットコインの最大の魅力は一度記録されたら誰にも書き換えられないという点です。中央の管理者がいなくても動くこの仕組みは、誰にも支配されないお金として信頼を集めてきました。私もずっと、変わらないことこそが最強のセキュリティだと信じていました。でも、その強みが逆に命取りになるかもしれないと知ったらどう思いますか。
量子コンピューターがもたらす静かな脅威
実は今、不変性という鉄則が揺らいでいます。その原因は量子コンピューターです。これが実用化されると、現在ビットコインを守っている暗号技術が短時間で破られてしまう可能性があります。
専門家の予測では2027年から2030年頃には、今の暗号が通用しなくなるレベルの技術が登場すると言われています。もし何の対策もしなければ、誰かが勝手に他人のウォレットから送金できてしまう未来が来るかもしれません。変わらないことが正義だったはずが、変わらなければ生き残れないという皮肉な状況です。
生き残るための修正ルール BIP
ではどうやって対策するのでしょうか。ビットコインにはBIPという改善提案の仕組みがあります。これは開発者や利用者が議論を重ねて、みんなで合意してからルールを変えるという民主的なプロセスです。
過去にもこのBIPを使って、取引の容量を増やしたり便利な機能を追加したりしてきました。今回もこの仕組みを使って、量子コンピューターに強い新しい暗号技術へアップグレードしようという議論が進んでいます。
意見が割れると通貨が分裂するリスク
しかし、ここで大きな問題があります。全員の意見が一致しないとネットワークが分裂してしまうのです。これをハードフォークと呼びます。以前も方針の違いから意見が対立し、ビットコインキャッシュという別の通貨が生まれたことがありました。
量子対策という重要な変更でも、どの技術を採用するかで揉めれば、ビットコインがいくつにも分裂して価値が暴落する恐れがあります。セキュリティを高めたいだけなのに、その過程で信頼が崩壊してしまうかもしれないのです。
次世代の鍵 PQCへの期待と課題
現在有力視されているのが、PQCと呼ばれる耐量子計算機暗号です。具体的にはDilithiumやSPHINCS+といった新しいアルゴリズムが候補に挙がっています。
これらは量子コンピューターの攻撃にも耐えられますが、データサイズが大きくなり取引処理が重くなるという欠点もあります。安全性と快適さのどちらを取るか、非常に難しい選択を迫られています。
私たちが注目すべきバランス
結局のところ、ビットコインはコードこそが法律という哲学と、現実の脅威に対応する柔軟性の間で揺れ動いています。頑なに変化を拒めば壊れてしまうし、安易に変えれば信頼を失う。このジレンマをどう乗り越えるかが、今後の見どころになりそうです。