
ビットコインが急落した局面で、個人投資家の56%はむしろ買いに動きました。普通なら怖くなって売る場面で逆の行動が多数派になったのは、強気というより下落の意味づけ自体が変わったからだと見ています。同じ調査では、トークン化資産への関心が大きく高まっていました。関心の高さと理解の深さが一致しているとは限らないという、別の緊張がここに隠れています。この二つの数字が実際に何を意味しているのか、順番に見ていきます。
急落時に買った投資家は56%にのぼりました
2026年暗号資産調査が示す三つの核心数字
Source: 2026年暗号資産調査(海外個人投資家対象)
ビットコインが10万ドルを突破したあと、2025年末から2026年初めにかけて急落した流れは、過去にも何度か見た光景です。筆者自身、2017年末の急騰と翌年の崩落、2021年の高値からの下落をそれぞれbitFlyerとCoincheckの口座で体験してきました。当時は下落のたびに取引所のアプリを開くのが怖かったのを覚えています。価格が20%下がれば口座残高も同じだけ減ります。それを見て平気な人は、そういません。
今回の調査で56%が下落を買いの機会にしたという結果は、単純に強気な人が増えたという話ではなく、下落そのものの意味づけが変わったことを示しています。かつては下落イコール終わりの始まりという恐怖がありました。今は下落イコール次の上昇までの準備期間という受け止め方に変わってきています。良い悪いの話ではなく、市場参加者の経験値が積み上がった結果でしょう。2017年組と2021年組はすでに一度崩落を生き延びているので、今回の下落に対する耐性ができていたとも言えます。
ただ、この耐性には裏があります。下落を買う判断ができるのは、生活費に手をつけずに動かせる余剰資金がある人に限られるからです。実際に筆者の周りでも、少額をコツコツ買っている人と、生活資金を削って買い増している人とでは、下落時の行動がまったく違いました。56%という数字の裏に、どれだけの人が無理をしていたのか、そこまでは調査から見えてきません。無理をしていた人の割合こそ、今回の数字が語らない部分です。
この耐性の強さは、将来への期待の強さとも関係しています。下落を乗り越えた人たちが今後どう動こうとしているのか、見てみましょう。
配分増加予定の投資家は80%ですが対象者に偏りがあります
トークン化資産への関心の推移:2025年から2026年
Source: 2025年調査と2026年調査の比較(記事内データより)
今後12カ月で暗号資産への配分を増やす予定だという回答が80%を超えました。この数字自体はポジティブに読めます。しかし立ち止まって考えると、この質問に答えているのはすでに暗号資産を持っている人たちです。持っていない人、興味がない人は調査対象に入りにくい構造があります。だから80%という数字は市場全体の楽観度ではなく、すでに市場に足を踏み入れた人たちの中での楽観度と考えた方が正確です。
この楽観が誰に都合よく働くかを考えると、答えは単純です。取引量が増えればbitFlyerやCoincheckのような取引所の手数料収入が増えます。これらの国内取引所は、PayPayのような決済サービス経由で暗号資産購入を取り込む動きも強めています。個人の資産形成という文脈と、プラットフォーム側の収益という文脈は必ずしも対立しませんが、重なる部分が大きいことは忘れない方がいいでしょう。手数料という一点に、この楽観の実態が集約されています。
配分を増やす対象は既存の暗号資産だけではありません。同じ80%の積極姿勢を持つ投資家たちが、次にどこへ関心を向けているのか見ていきます。
トークン化資産への関心は38%から75%へ倍増しました
三つの数字が語ること、語らないこと
| 指標 | 語ること | 語らないこと |
|---|---|---|
| 56%(下落時購入) | 下落への耐性と経験値の蓄積 | 無理をして買い増した人の割合 |
| 80%(配分増加予定) | 既存保有者層の積極姿勢 | 未保有者を含む市場全体の楽観度 |
| 75%(トークン化関心) | 参加障壁の低下と関心の急伸 | 仕組みへの理解の深さと購入後のリスク認識 |
Source: 記事内容の分析整理
2025年の調査から2026年にかけて、トークン化資産への関心を示す回答は大きく伸びました。単なる微増というレベルを超えた変化です。この背景には、トークン化資産という言葉自体が持つ意味の変化があると見ています。
以前のトークン化資産は、どちらかというと技術的な実験の域を出ないものでした。説明を聞いても、結局何が便利になるのか分かりにくいものでした。ところがGMOコインのような既存の取引プラットフォームや銀行が窓口になることで、話が一気に具体的になりました。普段使っている口座から、株式や不動産の権利の一部をトークンという形で買えるとなれば、仕組みの詳細を理解していなくても参加しやすくなります。実際、筆者が去年ファミリーマートのマルチコピー機で証券口座の資料請求をしたときに感じたのは、金融サービスへのアクセスのしやすさがここ数年で大きく変わったという実感でした。同じ流れがトークン化資産にも及んできたということでしょう。
ただ、ここで一つ疑問が残ります。アクセスしやすくなったことと、仕組みを理解して納得して投資することは別の話だからです。関心の高さを示す数字は目を引きますが、実際に購入した後にリスクをどこまで理解しているかは、この調査からは見えてきません。公式の説明と実際の仕組みがずれていることは、暗号資産の世界では珍しくありません。筆者も新しいウォレットサービスを試して、説明書にある通りに動かないことに何度も遭遇してきました。アクセスの良さと理解の深さは、必ずしも一致しません。
ここまでは海外調査の数字を見てきましたが、日本の個人投資家にそのまま当てはめられるかは別の問題です。日本特有の事情を確認します。
日本の生活者はこの数字をこう受け止めています
海外の調査結果ですが、日本の個人投資家の行動とも重なる部分があります。セブン-イレブンのATMで暗号資産取引所への入金ができるようになってから、暗号資産への距離感は確実に縮まりました。LINE Payのポイントを暗号資産に変換できるサービスが広がったことも、同じ流れの一部です。日常の決済と資産形成の境目が年々薄くなっています。
一方で、日本独自の事情もあります。暗号資産の利益にかかる税率は依然として高く、取引を増やすほど確定申告の手間も増えます。海外の調査で見られる80%という積極姿勢が、そのまま日本の個人投資家に当てはまるかというと、税制の違いを考えるとやや慎重に見た方がいいでしょう。筆者の見立てでは、日本の個人投資家の増加ペースは海外よりも緩やかに推移すると予想していましたが、ここ一年の実際の口座開設数の増え方を見ると、その予想は外れていました。思っていたよりも早く増えています。
三つの数字が示す市場の体温は恐怖より慣れに傾いています
56%が下落を買い、80%が増配を予定し、75%がトークン化資産に関心を示しました。この三つの数字を並べると、個人投資家の暗号資産に対する姿勢は、恐怖よりも慣れが優位になっている段階だと言えます。
ただ、慣れは油断と紙一重です。過去の急落を乗り越えた経験があるからこそ、次の下落も同じように乗り越えられると考えてしまいます。しかし市場の局面は毎回違います。2017年の下落と2021年の下落、そして2026年初めの下落は、原因も速度もまったく異なるものでした。経験が蓄積されるのは良いことですが、それが過信に変わる瞬間を見極めるのは、調査の数字では測れません。
冒頭で触れた、下落時に買いに動く56%という逆転行動と、トークン化資産への関心という二つの緊張は、結局同じ根から出ています。市場に慣れた人ほど、新しい商品にも抵抗なく手を伸ばします。その慣れが過信に変わるかどうかは、今の数字では分かりません。75%という関心の高さが、これからの一年でどこまで実際の購入行動に転化し、どこまで理解を伴ったものになるのか。この転化率こそが、次の調査で確認したい一点です。