世界最大のステーブルコイン発行企業テザー・ホールディングスが、最大200億ドルの資金調達について投資家と協議を進めています。この取引が実現すれば、同社の企業価値は約5000億ドルに達します。
この数字は、OpenAIやSpaceXと同水準です。ステーブルコインという「デジタル化された1ドル札」を発行する企業が、世界で最も価値のある非公開企業の一角に躍り出ようとしています。
日本の認可取引所では買えない、世界最大のステーブルコイン
テザーのUSDTは時価総額約1728億ドルで、ステーブルコインの中で最大です。世界中の暗号資産取引の基軸通貨として機能し、1日の取引高が約700億~1200億ドル、仮想通貨市場全体で最大の取引量を誇ります。
ところが、日本国内の金融庁認可済み取引所では、USDTの直接取り扱いはありません。日本の投資家がUSDTを取得するには、国内取引所でビットコインやイーサリアムを購入後、海外取引所で交換する必要があります。
つまり、世界最大のステーブルコインを入手するには、日本では一手間かけて海外取引所を経由しなければならないのです。規制に準拠した国内の正規ルートでは、直接購入できません。
2025年3月にSBI VCトレードが国内初の登録を完了し、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」の一般向け取引サービスを開始しました。日本で金融庁の認可を受けて公式に取引できるのは、時価総額2位のUSDCだけです。
従業員200人で年間利益1兆円超の衝撃
テザーの収益力は、伝統的な金融機関を圧倒しています。2025年第2四半期だけで49億ドルの純利益を計上し、年初からの累計利益は57億ドルに達しています。
このペースで推移すれば年間100億ドル超の純利益が見込まれ、従業員約200名で年間130億ドル規模の利益を生み出す、世界最高水準の従業員一人当たり利益率を記録しています。
収益源は極めてシンプルです。USDTの発行に伴う準備資産を米国債などに投資し、その利息収入で収益を上げるビジネスモデル。2025年第2四半期には、米国債への投資を1270億ドルまで拡大し、韓国を抜いて米国債の第18位の保有者となりました。
一企業が国家レベルの米国債保有者になっている現実が、ステーブルコインの影響力を物語っています。
銀行を介さない「デジタルドル」の台頭
ステーブルコイン市場は2025年時点で時価総額2750億ドルを超え、前年比30%以上の成長を続けています。
これは、伝統的な銀行システムを経由せずに、国境を越えた価値移転が可能になることを意味します。送金手数料は従来の銀行送金より大幅に安く、処理速度も速い。24時間365日稼働し、世界中どこへでも数分で送金できます。
ソフトバンクグループとARK Investment Managementが、テザーの大型資金調達ラウンドへの参加について協議しています。日本企業も、この変化を無視できなくなっています。
日本の規制整備と市場の現実
日本は規制整備では世界に先行しました。2025年3月の改正では、信託型のステーブルコイン発行者が準備金の最大50%を短期国債などの低リスク資産で保有することが許可されました。
2025年8月には金融庁がフィンテック企業JPYCによって発行される日本円連動型ステーブルコイン「JPYC」の承認に動いていると報じられています。国内初の円建てステーブルコイン誕生が近づいています。
ただし、USDTは長らく市場の約60%を占めていますが、2025年に入ってからはUSDCの割合が増加し約25%を占めるまで成長しています。世界的にはUSDTが圧倒的なのに、日本の認可取引所ではUSDCしか扱えない。この構造が、日本市場の特殊性を示しています。
まだ初期段階だが、流れは止まらない
交渉はまだ初期段階にあり、最終的な調達額は大幅に低下する可能性もあります。テザーのボー・ハインズ氏はソウルカンファレンスで資金調達計画はないと述べましたが、関係者によると投資家はデータルームへのアクセスを得て参加検討を進めており、年内の取引完了を予想しています。
情報は錯綜していますが、方向性は明確です。ステーブルコインは、もはや実験的な技術ではなく、グローバル金融インフラの一部として機能し始めています。
テザーの5000億ドル評価が実現するかどうかは未知数です。ただし、従業員200人の企業が年間1兆円以上の利益を生み出し、国家レベルの米国債保有者になっている現実が、金融システムの地殻変動を示しています。
日本に住む私たちが、この変化にどう向き合うのか。それが問われる時代が、すでに始まっています。
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