AIの電力需要が化石燃料を呼び戻している


データセンターの電力消費が、世界のエネルギー政策を揺るがしています。2024年に約460テラワット時だった世界のデータセンター電力消費は、2030年には945テラワット時へと倍増する見通しです。これは日本の年間総電力消費量を上回る規模になります。


この急激な需要増に対応するため、各国は既存のエネルギーインフラの活用を模索しています。特に注目されるのが、一度は衰退の道をたどった化石燃料発電への回帰です。


24時間稼働するAIが求める安定電源


データセンターには特殊な電力ニーズがあります。一般的な工場やオフィスと違い、1秒たりとも電力供給が途絶えてはいけません。最新のAIサーバー1台で、5,000世帯分に相当する電力を消費します。これが数万台規模で24時間365日稼働し続けます。


再生可能エネルギーには間欠性という課題があります。太陽光は夜間に発電できず、風力は風が吹かない時は止まります。データセンターはその不安定さを待つことができません。結果として、安定した基幹電源として石炭、天然ガス、原子力のいずれかが必要になります。


原子力の新規建設には10年以上かかります。天然ガスは石炭より環境負荷は低いものの、コストは高くなります。こうした制約から、既存の石炭発電所を活用する選択が浮上しているのです。


米国では石炭発電所の閉鎖を阻止


2025年4月8日、トランプ米大統領は石炭産業の復活を目的とした大統領令に署名しました。表向きの理由は国家エネルギー安全保障の強化ですが、実際にはAI産業に必要な電力供給が背景にあります。


この大統領令により、石炭は戦略資源として指定されました。石炭火力発電所への環境規制は2年間免除され、連邦政府の土地での石炭採掘制限も解除されます。エネルギー省は既に複数の発電所について、閉鎖を阻止する緊急命令を発出しています。


トランプ政権高官は「石炭火力発電所の稼働継続により、AIプロジェクトで電力消費量の多いデータセンターへのエネルギー供給を後押しできる」と主張しています。


日本では原子力とデータセンターの協業が注目


日本の状況は米国とは異なります。国内では2027年から2033年度にかけて、火力発電の設備容量が現在より約200万kW減少する見通しです。一方で、データセンターと半導体工場の新増設により、2034年度にかけて電力需要は増加し続けます。


日本が注目しているのは、原子力発電とデータセンターの協業です。関西電力やNTTグループは、原子力発電を活用したデータセンター事業を検討しています。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画でも、原子力を「最大限活用していくことが極めて重要」と位置づけ、2040年度の電源構成で2割程度を目指すとしています。


日本と韓国では、再生可能エネルギーと原子力が2030年のデータセンター消費電力の現在の35%から60%近くをカバーすると見られています。


再生可能エネルギーだけでは追いつかない


IEAの報告書によれば、今後5年間で世界のデータセンター電力需要の伸びの半分を再生可能エネルギーがカバーする見通しです。しかし、残りの半分は依然として化石燃料が担います。


さらに問題なのは、AIの効率が向上しても総電力消費は減らないという点です。これは「ジェボンズのパラドックス」と呼ばれる現象です。技術が効率化すると、コストが下がり、より多く使われるようになります。AIモデルが省電力化しても、医療、金融、製造など全産業への普及により、結果的に総消費量は増え続けます。


2030年以降に期待される転換点


希望は2030年以降にあります。小型モジュール炉(SMR)が商用化されれば、低炭素で安定した基幹電力の供給が可能になります。マイクロソフトやグーグルなどの大手IT企業は既にSMR開発への投資を進めており、合計出力2,000万kW以上の計画があります。


米国では、SMR初号機が運転開始予定の2030年以降、原子力発電の役割が一段と大きくなる見通しです。中国でも2030年以降、SMRの導入により石炭利用が相対的に減少すると予測されています。


それまでの5年間、世界はエネルギー源の選択を迫られ続けます。ChatGPTで質問する度に、画像を生成する度に、どこかで化石燃料が燃やされているという現実があります。AIの進化と環境保護の両立は、2030年代まで待たなければならないのかもしれません。


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