ビットコインが10万ドルを突破した2024年12月以降、日本の金融業界に静かな波紋が広がっています。単なる価格上昇の話ではありません。テキサス・ビットコイン財団が2024年に出版した「The Satoshi Papers」という学術書が、ビットコインと国家の関係について根本的な問いを投げかけているのです。
この本には経済学者や政治学者、哲学者など10名の研究者が寄稿し、ビットコインが貨幣システムと国家権力の関係をどう変えるのかを多角的に分析しています。編集者のナタリー・スモレンスキーは、ビットコインを「政治的に中立な、グローバルな価値交換の基盤」と位置づけています。
日本でも変化の兆しが見え始めています。2024年4月、東京に本社を置くメタプラネットがビットコインを主要準備資産とする方針を発表しました。法定通貨のインフレリスクに備えるためです。2025年末までに1万BTC、2026年末までに2万1000BTCの保有を目指しています。
金融庁の調査によれば、日本の投資経験者のうち7.3%がすでに暗号資産を保有しており、これは外国為替証拠金取引(FX)の保有率を上回っています。機関投資家も動き出しました。米国ではビットコインETFを保有する機関投資家が1200社を超え、日本の年金基金の一部もインフレ耐性資産として検討を始めています。
The Satoshi Papersが指摘する核心は、ビットコインが中央銀行の役割を部分的に自動化したという点です。通貨発行量が2100万枚に限定され、誰も恣意的に増やせません。政府が戦費調達のために紙幣を刷りまくる、そんな20世紀的な手法が通用しにくくなるわけです。
ただし、日本の金融当局は慎重な姿勢を崩していません。金融庁の相談窓口には暗号資産関連の相談が月平均300件以上寄せられており、詐欺的な投資勧誘も後を絶ちません。価格変動性の高さも課題です。2025年2月には大手取引所のハッキング事件やトランプ大統領の関税政策への懸念から、ビットコインは一時1600万円から1100万円まで急落しました。
興味深いのは、ビットコインが「デジタル金」として扱われ始めている点です。米国ではトランプ政権がビットコイン準備金構想を打ち出し、シンシア・ルミス上院議員が5年で100万BTCを購入する法案を提出しました。実現すればFRB(連邦準備理事会)が保有することになります。
日本経済研究センターの岩田一政理事長は、この構想について「価値の貯蔵手段としてメリットがあっても、価格変動が大きすぎて一般的な交換手段や計算単位としての役割は難しい」と指摘しています。国家がビットコインを準備金に組み入れれば、暴落時には国民の税負担が急増するリスクがあるというわけです。
The Satoshi Papersで経済学者ジョシュア・ヘンドリクソンは、ビットコインの採用が国家権力の新たな表現を可能にする一方で、制限もかけると論じています。貨幣を通じた国民の監視や資本統制が難しくなり、税収確保の手段も変わらざるを得ません。
2025年10月現在、ビットコインは約1700万円台で推移しています。8月には1800万円の史上最高値をつけました。日本の投資家の間でも関心が高まっていますが、冷静な視点も必要でしょう。
ビットコインが国家を完全に置き換えることはないでしょう。しかし、国家が貨幣を独占してきた歴史が、少しずつ書き換えられているのは確かです。The Satoshi Papersが問いかけるのは、「私たちはどんな未来を選ぶのか」という根本的なテーマです。
技術革新が政治システムに影響を与える時代。答えはまだ出ていません。
Disclaimer: 本記事は情報提供を目的としており、投資・税務・法律・会計上の助言を行うものではありません。記載内容の正確性や完全性を保証するものではなく、将来の成果を示唆するものでもありません。暗号資産への投資は価格変動が大きく、高いリスクを伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。